『お引越し』『夏の庭 The Friends』4Kリマスター版が公開中!没後23年を経ていまなぜ相米慎二監督作は世界で評価されるのか

コラム

『お引越し』『夏の庭 The Friends』4Kリマスター版が公開中!没後23年を経ていまなぜ相米慎二監督作は世界で評価されるのか

近年一段と世界的に、レトロスペクティブや特集上映が開催されている相米慎二監督。2021年の金馬奨(台湾・香港のアカデミー賞)で特集上映が組まれ、名匠ホウ・シャオシェンが『台風クラブ』(85)を絶賛、今年開催されたヴェネチア国際映画祭では『お引越し』4Kリマスター版がクラシック部門の最優秀復元映画賞を受賞した。こうした海外での再評価を経て、前述の『お引越し』(93)と『夏の庭 The Friends』(94)の4Kリマスター版が公開中だ。没後23年を経て、なぜいま相米作品が世界で高い評価を受けているのか。映画評論家の轟夕起夫氏に相米作品の特徴と合わせて解説してもらった。

【写真を見る】(左から)北米版、フランス版、イタリア版、台湾版の『お引越し』ポスタービジュアル
【写真を見る】(左から)北米版、フランス版、イタリア版、台湾版の『お引越し』ポスタービジュアル[c]1993/2023讀賣テレビ放送株式会社 原作:ひこ・田中「お引越し」

「女性目線」の繊細な描写は時代を先んじていた

『お引越し』4Kリマスターの公開に合わせ、当時11歳の演技初心者ながら、俳優&映画デビューした特別な経歴を持つ田畑智子さんに取材する機会を得たのだが、いささか遅すぎた相米監督の国際的な評価の動向について彼女はこう述べた。「私としては“やっと見つけてくれた!”と感じています」と。

境遇は全然違うものの筆者の思いも同じだ。まだグランプリ制度が導入される前、『お引越し』は第46回カンヌ国際映画祭“ある視点”部門への出品作であったが、同じく選出されていた北野武監督の『ソナチネ』(93)のほうが注目され、欧州での評価軸となった。単純な比較はできないけれどもその美点が当時はおそらく、伝わり切らなかったのだろう。

『お引越し』は要約すると離婚目前の両親(中井貴一・桜田淳子)に挟まれた小学6年生、多感な少女レンコの物語と言える。かたや『夏の庭 The Friends』は“死”に興味を抱く小学6年生の男子3人組が近所の独居老人(三國連太郎)の最期を目撃しようとして、忘れ難い経験をするに至る。どちらも鮮烈なひと夏の「子どもの映画」だが、同時に冷徹な目で大人たちを描いた作品でもある。

三國連太郎演じる孤独な老人と3人の交流を描いた『夏の庭 The Friends』
三國連太郎演じる孤独な老人と3人の交流を描いた『夏の庭 The Friends』[c]1994/2024讀賣テレビ放送株式会社 [c]1992湯本香樹実/新潮社

公開からおよそ30年後、『お引越し』は撮影担当の栗田豊道氏の監修の元、4Kリマスター修復され、2023年、第80回ヴェネチア国際映画祭クラシック部門で最優秀復元映画賞を受賞。さらにはフランスで劇場公開されるや当初の数館から130館以上にまで拡大を果たし、台湾、米国、オランダ、スイスなどでも上映された。『夏の庭 The Friends』4Kリマスター版は今年、大々的な相米監督特集を組んだ香港国際映画祭にてワールドプレミア上映、こちらも好評を博した。


『お引越し』には 宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』を思わせるシーンも
『お引越し』には 宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』を思わせるシーンも[c]1993/2023讀賣テレビ放送株式会社 原作:ひこ・田中「お引越し」

これは時代がようやく、相米作品へと追いついたのか?2024年、米国ニューヨークの劇場で久々に『お引越し』を観返したという田畑さんは自身が母親の立場になったこともあり、少女レンコだけでなくその母ナズナの気持ちに共感したそう。なるほど、仕事をしつつの子育ての大変さであったり、何かと夫と言い争うのが煩わしくて“自分”を心の内に秘め、それでつい不機嫌になってしまう「女性目線」の繊細な描写は確かに(日本映画の中では群を抜いて!)時代を先んじていた。が、もしかしたら終盤、レンコがひとりで彷徨い、森を抜け、辿り着いた琵琶湖畔にて厳かな祝祭的体験をするという作劇のかぶき方のほうが画期的だったのかも。さながら世界を席巻した宮崎駿アニメ、あの『千と千尋の神隠し』(01)の登場を予告しているようだ。

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