「半沢直樹」「陸王」などの池井戸潤イズムが詰まった『空飛ぶタイヤ』の“胸熱”要素
「半沢直樹」や「下町ロケット」、「陸王」など、高視聴率を叩き出したTVドラマの原作を手がけてきた池井戸潤。彼の小説として初の映画化となる『空飛ぶタイヤ』が6月15日(金)に劇場公開される。「超高速!参勤交代」シリーズの本木克英監督がメガホンをとり、長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生ほか豪華キャストが顔をそろえた本作。これまでの傑作ドラマで貫かれてきた池井戸作品らしい“胸熱”要素が満載の仕上がりになっている。
企業から罪を被せられた男の奮闘
本作で描かれるのは、ある日、突然発生したトレーラーの脱輪事故をめぐる大手自動車会社「ホープ自動車」のリコール隠しと、それを暴こうとする人間たちの攻防。トレーラーの整備不良を疑われ、警察からも捜査されて窮地に追い込まれる運送会社「赤松運送」の社長・赤松徳郎(長瀬)は、車両の欠陥に気づき製造元である財閥系大手「ホープ自動車」へトレーラーの調査を要求。赤松はリコールを恐れるため不誠実な態度をとる大企業に対して、単身闘いを挑んでいく。
この“企業に罪を被せられる男”という構図は、池井戸ドラマの代表作「半沢直樹」にも見てとれる。堺雅人演じる半沢は、東京中央銀行大阪西支店での融資事故の責任を上司から転換され、そこから半沢の反撃が展開していく。絶大な力を持つ組織から罪を被せられる男の奮闘劇は、池井戸作品の重要なポイントだ。
中小企業vs大企業の駆け引き
『空飛ぶタイヤ』では、リコール隠しを巡り赤松運送がホープ自動車と対立していく。この“中小零細企業vs大企業”のバトルも池井戸作品の真骨頂。下町の中小企業「佃製作所」と大企業「帝国重工」とのロケットの部品を巡る駆け引きを描いた「下町ロケット」では社長の佃(阿部寛)をはじめ佃製作所の面々が、大企業の圧力や嫌がらせに屈さず堂々と渡り合う展開が感動的だった。
さらに池井戸作品が“胸熱”なのが、市井の経営者が大企業と対峙し渡り合う中で、企業の枠を超えたパートナーシップが育まれる展開。『空飛ぶタイヤ』でもホープ自動車販売部の沢田(フジオカ)と徳郎の関係性が物語の序盤と後半では変化する。調査を要求し続ける徳郎を疎ましく思い避けていた沢田が、社内でリコール隠しを匂わせる秘密会議の存在を察知し、調査を開始。沢田は自身の出世と正義感の間で揺れ、徳郎と対立しながらも真相に迫っていく。これは「下町ロケット」での、自身が特許を持つバルブシステムの部品供給にこだわった佃と、特許の買い取りを狙うも佃製作所の秀でた技術力を掛け値なしに評価し、佃との協力体制作りに尽力した帝国重工宇宙航空部部長・財前(吉川晃司)の関係に近いかもしれない。
苦難を共に乗り越える人間たちの絆
2017年10月期に放送されたドラマ「陸王」は、経営難の足袋製造会社「こはぜ屋」が起死回生を図るため、ランニングシューズ・陸王を開発する物語だったが、社長の宮沢紘一(役所広司)とその家族、そして社員・パートといった面々が織りなす家族ドラマ的な側面も備えていた。苦境でもお互いに支え合い、時には考え方の違いで衝突したりを繰り返しながら、陸王の開発を目指す姿は視聴者の涙を誘った。
一方『空飛ぶタイヤ』でも会社や家族の絆を描く人間ドラマは健在。トレーラーの脱輪事故以降、事故のニュースが原因で徳郎の息子が学校でイジめられる展開に。それでも息子は“自分の父親は人殺しではない!”と徳郎や赤松運送の無実を信じ続ける。さらに、事故で会社の業績が急激に悪化し、倒産の危機に瀕する時でも、ホープ自動車と戦い続ける徳郎の姿に整備士たちは“社長についていく!”と社内に留まる心意気を見せる。そんなかけがえのない“絆”が池井戸作品には溢れている。
池井戸潤の小説として初の映画化となった『空飛ぶタイヤ』。本作は、これまで映像化されてきたドラマの“胸熱”な魅力を、くまなく、そしてより濃く受け継いだ感動作に仕上がっている。
文/トライワークス
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