『イエスタデイ』だけじゃない!映画で描かれた◯◯がない世界 Part.2
「もしもザ・ビートルズと彼らの音楽が消えたなら…」。そんな世界を舞台にしたダニー・ボイル監督の『イエスタデイ』が公開中。売れないミュージシャンが自分の曲としてザ・ビートルズの曲を発表したらどうなるのかという”IF"の物語が展開するヒューマン・ドラマだ。何かがない世界を舞台にした物語は、”ない”ものを求める人々の姿にドラマが生まれ、”ある”ことの現実の豊かさ、もしくは危うさを浮かび上がらせる。〇〇がなくなると世界は一体どうなるのか!? 紹介していこう。
子供がいない 『トゥモロー・ワールド』(06)
世界中で子供が18年間も生まれていない2027年。荒廃した街で、主人公が守る不法移民の少女が出産する赤ん坊は、まさに希望の象徴だ。激しい戦闘の最中に赤ん坊の泣き声を聞いた兵士たちが銃撃をやめ、母子のために道を開けるシーンは極めてドラマティック。アルフォンソ・キュアロン監督の演出が冴える。
陸地がない 『ウォーターーワールド』(95)
未来、温暖化により極地の氷が溶け地球は海で覆われた。そんな世界で人々が目指すのは、伝説の陸地“ドライランド”だ。第16回ゴールデン・ラズベリー賞で全4部門の候補になるなど評価は散々だったものの、巨費が投じられた人工島のセットやド
派手な水上アクションの大スケールは、今こそ観返す価値あり。
本が(1冊しか)ない 『ザ・ウォーカー』(10)
終末戦争後、文明が崩壊した世界に1冊だけ残った“ある本”を西へと歩いて運ぶ男の前に、それを狙う独裁者が立ちはだかる。焚書がモチーフの『華氏451』('66)と同様、最後の頼みは人の記憶。30年もかけて運ぶうちに内容を暗記した男にとって物体としての本の価値とは? 驚きと共に余韻の残る結末。
死なない 『ミスター・ノーバディ』(09)
人が不死を手に入れた2092年に注目の的となるのは、老衰で“人類最後の死”を迎えようとしている118歳の男。映画ではその時々の選択によっていくつにも枝分かれした彼の過去を並行して見せていく。岐路のない人生はない、つまり人生には限りない可能性があることを示す、鬼才ジャコ・ヴァン・ドルマルの秀作。
雨が降らない 『タンク・ガール』(95)
コミックを実写化したSFの舞台は、巨大彗星の衝突後、11年間も雨が降らず、地表の砂漠化が進んだ2033年。水の独占を図る悪党にパンクなヒロインが立ち向かう。同年製作の『ウォーターワールド』では土(と真水)が高い価値をもつのに対し、本作ではヒロインが浴びるシャワーから水の代わりに白い砂が出る。
視力がない 『ブラインドネス』(08)
視力を失う奇病に感染した者たちが、収容所で人間の醜い部分をむき出しにしていく。<盲目>という意味での“BLINDNESS(原題)”も重要なモチーフではあるものの、映画が進むにつれて<無知、無分別>の意味のほうが浮かび上がってくる極限のドラマ。それは他者への無理解や不寛容といった問題意識を喚起する。
インテリがいない 『26世紀青年』(06)
人間冬眠実験から目覚めた超フツーの男と娼婦が目にした500年後の米国にはバカしかいなかった! 話はまともに通じず、裁判だってその場のノリ。芽が出ない畑にまくのは水代わりのスポーツ飲料…。なのに観た後はまんざらでもない未来だと思えるのは、そこに学力とは関係ない友情と愛が“ある”からかも!?
文/橋真奈美【DVD&動画配信でーた】