『麒麟の翼』の阿部寛、父親の存在の大きさと孤独を語る!
東野圭吾原作の人気ドラマの映画化『麒麟の翼 劇場版・新参者』(1月28日公開)で、ドラマに続き、警視庁日本橋署刑事・加賀恭一郎役を演じた阿部寛。常に冷静で、深い洞察力を持って事件の謎を解いてきた加賀が、本作で初めて人間らしいほころびを見せる。彼の静かな動揺は見ている側にも派生し、心を揺さぶっていく。阿部にインタビューし、本作に込めた思いを聞いた。
今回、加賀が挑んだのは、日本橋の翼のある麒麟像の下で刺殺体が見つかった、ある男の殺人事件。関係者の証言を取っていく捜査陣だが、事件の背後には思いもつかぬ真実が隠されていた。今回、「新参者」シリーズ待望の映画化ということで、阿部は「大きな画面で、より深く人間を描けるんじゃないかという期待度が高く、身を引き締めてやりました」と語る。
加賀は通常、ポーカーフェイスだが、父親(山崎努)が他界する最後の瞬間の話を聞いた時、葛藤を見せる。「田中麗奈ちゃん演じる看護師は、父親を看取った人間。しかも、親父が死ぬ最後の何分間の行動を完全に見ていた彼女に、その時の様子を聞かされた時、加賀のショックは相当大きかったと思うんです。でも、実は加賀にとって、彼女はすごく貴重な存在で、新たに加賀の何かを引き出してくれる可能性を持った人。加賀って普段は人のおせっかいばかり焼いているけど、逆に彼女にはおせっかいをされます。だから、その存在が、加賀自身もすごく嬉しかったんじゃないかと」。
加賀の心の内を阿部はこうとらえた。「加賀にとっての親父は、人生に大きな影響を与えた人です。今回は、加賀が父の刑事という職業を背負った業というか、家族を粗末にしてしまった無念さを、彼自身が探る旅でもありました。だから、父親の最後の思いがわかった時、すごく感情が揺らぐ。それは、加賀にとってはすごく意味のあることで、彼の人生観が大きく変わるような出来事だったとも思います。だけど、彼はまた刑事の道を進んでいくんです」。
阿部にとっても父親の存在は大きい。「ほとんどの人が子供の頃は、近くにいる母親の存在が大きいと思います。ところが自分が社会へ出て仕事をしていくと、どんどん親父の存在が大きくなっていく。僕自身も年齢を重ねていくうちに、親父と話をするようになっていきました。大人になって、人生の中でいろんな負けを背負っていくと、ああ、親父もあの時、こんな思いだったのかと、親父の孤独を感じていくんです。仕事をやっていくことで距離が開く家族との関係とかね。でも、親父は言い訳もせず、ある種、家族の中で他人みたいに過ごしてきたんです。でも、親父は本当のところ、どう思っていたんだろうと考えながら、どんどん父親と自分がだぶっていきました」。
阿部は、改めて加賀恭一郎という男をこう分析する。「加賀って、何か負のものを背負っているんです。それが親父への思いなのか、刑事の業、刑事としての罪なのかはわからない。でも、それを背負ったうえで刑事をやっているから、哀しさがあり、そこには懺悔の気持ちも含まれている。でも、だからこそ、より多くの人を救えるんじゃないかと。他とは決して群れないし、松宮(溝端淳平)という相棒はいるけど、決して底の部分は見せず、引きずり込もうともしない。孤独ですね」。
阿部にとって当たり役となった刑事・加賀恭一郎。阿部は加賀の孤独感に寄り添い、役を自分のものにしていった。原作は、 加賀恭一郎シリーズの最高峰といわれるが、阿部にとっても『麒麟の翼 劇場版・新参者』が、「新参者」シリーズの中で傑出した作品になったと思う。【取材・文/山崎伸子、撮影/伊藤尚】