クローネンバーグの長男が主演俳優と来日!「父親なんてつぶしてやる!なんて嘘」
『イースタン・プロミス』(07)のデヴィッド・クローネンバーグ監督の長男ブランドン・クローネンバーグが、自ら脚本を手がけた衝撃作『アンチヴァイラル』(5月25日公開)で待望の監督デビュー。舞台は、セレブリティのウイルスを熱狂的なマニアに提供するクリニックという斬新な物語で、その過激性や独創性からは、脈々と受け継がれた鬼才の血を感じずにはいられない。来日したブランドンと、主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズにインタビューを敢行した。
ケイレブが演じるのは、クリニックに勤める若き注射技師だが、実は希少価値のウイルスを闇マーケットに流しているブローカーでもある。ある日、病に伏した憧れのセレブから採取した血液を自分の腕に注入するが、やがて彼の体調に異変が起きていく。長編デビュー作ながらも、かなりの野心作で、おぞましくも耽美的でセンセーショナルな作風には度肝を抜かれる。
主演を務めたケイレブは「監督は、何がやりたいのか、そのビジョンが実にはっきりしていたよ。この素晴らしい作品に参加できて、本当にラッキーだった」と目を輝かせると、ブランドンは照れながらこう語った。「監督たるものは、確固たるアイデアを持っていないといけないからね。でも、それが前提としてあったうえで、ケイレブたち俳優や、撮影の(カリム・)ハッセンさん、美術のアーヴィンダー(・グレイウォル)さんなど、本当に才能ある方々と一緒にやると、コラボレーションの要素が強くなる。彼らとディスカッションを重ねて作っていけたことが本当に良かったよ」。
ケイレブはうなずきながら、「みんなが力を合わせて、監督のアイデアをちゃんと具現化しようとしていたよ」と言うと、ブランドンは「きっと、みんな心配だったんだよ。この監督、馬鹿すぎてついていけないと思いながらも、仕方がないなと一生懸命支えてくれたと思う」とおちゃめに笑う。
ケイレブはつられて笑いながらも、ブランドンについて敬愛の念を強調する。「彼はビジョンを緻密に組み立てていき、自分でできることは全部自分でやるけど、足りないものは他のプロに任せるという方針なんだ。核にあるアイデアはしっかりしているけど、それに凝り固まることはなく、外へ目を向け、必要なものをうまい具合に取り入れていく。有能な人材を上手に使う監督だったよ」と、真面目に語った後、「まあ、『ボス!ボス!』を喜ばせるというのが僕たちの仕事だったんだ」とおどける。するとブランドンも、「すごく良い友情関係が培うことができた。そこから、セクシャルな関係が生まれたしね」と悪ノリし、そこからふたりは下ネタのジョークで大暴走!ふたりが本作でいかに深い信頼関係を築けたのかがひしひしと伝わってきた。
セレブのウイルスを共有するというマニアックな発想について共感できるか?と尋ねると、ブランドンは「できないよ。クレイジーだし、そんなことする人はいないよ」と笑い飛ばす。ケイレブも「映画ならではの世界だと思う」と言ってくれたので、ちょっと安心した。でも、常人では理解できないシドの心理を繊細に体現したケイレブは、役作りをこう振り返る。「撮影に臨むに当たり、本当に病気になるべきかどうか、結構真剣に悩んだよ。でも、それをやっちゃうとインチキかなあと。お芝居は技術でもあるので、実際、病気になるよりは、丁寧なお芝居をする方が効果的だと思ったから。普段から、できることは何でもやったよ。杖をついて歩いてみたり、劇中でシドが食べるものを普段の生活でも食べるようにしたりね。そこは監督が上手く手綱を持って指導してくれたよ。監督に全幅の信頼を寄せていたから、上手くいったのかもしれない」。
ブランドンは、初めて長編映画を撮った手応えについても話してくれた。「1本目を作る前は、誰に向けて脚本を書いているのか手探り状態だった。実際に映画を作れるかどうかもわからなかったから、盲目的に試行錯誤をしている感じで、恐ろしかったよ。でも、ようやく1本、監督作が完成した今では、以前よりは自信がついたかな。もちろん、次回作が簡単に作れるようなポジションにはまだいないけど、僕でも映画を作れるんだという実感が自分を後押ししてくれるようになった。要するに、気が楽になったってことだ」。
監督デビューを果たしたということで、いやがうえでも、偉大な父親デヴィッド・クローネンバーグの影は一生つきまとうことになる。それを重々承知のうえで、あえて「お父さんを超えたいという思いはある?」と振ってみた。ブランドンは「つぶしてやる!超えてやる!」と力強くかました後に「嘘だよ、嘘!お願いだから書かないで」と慌てて取り消しながら大笑い。「正直、わからないんだ。そういうことを推し量ること自体、どうかと思うし、だからそういう気持ちはないよ」。
終始、リラックスしたムードで『アンチヴァイラル』への熱い現場を語ってくれた期待の二世監督ブランドンと、若き新星ケイレブ。内に秘めた情熱をジョークという煙に巻くふたりからは、志の高さが伝わってきて、非常に頼もしく感じた。【取材・文/山崎伸子】