第68回カンヌ国際映画祭、日本映画2作の反応は?

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第68回カンヌ国際映画祭、日本映画2作の反応は?

『萌の朱雀』(97)で第50回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞して以来7度目のカンヌという河瀬直美監督と、5度目の是枝裕和監督。2人ともカンヌ国際映画祭が海外にお披露目をした“カンヌの申し子”である。

現在開催中の第68回カンヌ国際映画祭では、是枝監督の『海街diary』(6月13日公開)がコンペティション部門で、河瀬監督の『あん』(5月30日公開)がある視点部門オープニング作品として上映された。

今回、双方に出演している樹木希林への配慮か、はたまた日本取材陣への配慮か、映画祭は同日の並んだ時間に上映をセット、記者会見も連続して、というスケジューリングで、取材陣にはかえって選択を迫られる結果になり、大騒動の一日であった。

ふた組の会見の様子、上映の様子をレポートしよう。まずは朝から日本向け会見を開いた河瀬組から。

「私はカンヌに育ててもらっているといえます。ここに来るたび、映画を愛している人たちがたくさんいること、その人たちが東の果ての日本の文化に敬意を払って私たちを迎えてくれることに感動します」と河瀬監督。

「ここの人たちは私の作品を一本だけでなく見続けてくれています。その中の一つとして、今回は小さな家族、擬似家族ともいえる人たちのつながりを描きました。今までの『自然と人間』といった大きな普遍性ではなく、どの国の人にもあるだろう家族について、幸せについての物語です。そこが通じればいいなと思っています」という期待を持って臨んだ「ある視点」部門のオープニング上映だったが、見事に観客の心をつかんだ様子で、さすがに感極まったのか、目元をぬぐう姿が印象的だった。

「徳江さんがいなくなるところはたまらなくなっちゃって…自分で感動しちゃいました(笑)」とも語った河瀬監督。主演を務めた樹木希林と永瀬正敏も上映に参加していたが、口をそろえて「あんなにたくさんのお客さんが、温かい拍手を送ってくれて、会場の外でもブラボーとか声をかけてくれるので、驚きつつもうれしかった」という。

永瀬正敏も監督同様、「徳江さんがいなくなるところは、涙をかなり我慢しました」と明かす。その徳江を演じた樹木希林は、カンヌについて「中毒になる場所ね。映画を愛する人たちがこんなに集まっていて、夜遅くまで街にあふれている。映画を作る人たちにとってここが目指すべき映画祭になっていることがよくわかりましたね」とコメント。本作が本格的な映画出演としては初めてになる内田伽羅も「あんなにたくさんのお客さんが立って拍手してくれて…」と、その感動を語っていた。

監督にとって自分の目となり観客の目となる撮影監督は非常に大事だが、今回、河瀬監督は新しい撮影監督と新しい機材で新作に挑戦した。「上映状態は最高ですね。音と映像の再現度が素晴らしいです。今度のカメラはアレクサという機種で、フィルムに近い映像が撮れます。初めてのカメラマンなので、私はどう撮りたいのかどこを撮りたいのかなどいちいち話し合いながら撮影していきました」

さらに初めての原作ものである。「この原作はドリアン助川さんが20年温めていたもので、なかなか出版社が見つからなかったものです。モチーフになっているのがハンセン病というもので、差別と偏見によって社会から捨てられてきた人々についての物語です」

「つまりこの映画は社会によって捨てられた人々と出版業界によって捨てられたものを、なぜ捨てられたのかと問いかけるものでもあります。一人の力で世界を変えることはむつかしいけれど、でもこのカンヌという場所でそれを発表できお客さんたちに暖かく受け入れられたということで、とても勇気をもらえました」

そして、4人の主演女優たちを連れてカンヌ入りした是枝監督は、「カンヌは映画を作る者にとって特別な場所ですが、そこに続けて呼んでもらえるというのはそれだけで光栄です」とコメント。

「ただ、来るのが当たり前だという感覚になってしまうんじゃないかと、怖いです。今回うれしいのは4人を連れて来られたこと。『連れて行く』と言っていた手前、実行できてよかった」と笑う。

鎌倉を舞台にした4人姉妹の物語ということで、小津安二郎の映画と比較されることについては「海外の批評やインタビューではよく『是枝は小津の孫だ』と言われてこそばゆく感じてきました。今回は原作の世界観も、人間を超えた時間の積み重ねについて描きたいという気持ちも、小津さんの作品に近いものがあると思い、参考に見直したりしまして、身近に感じながら撮影しました」と明かす。

「時間が直線で進むのではなくて、反復しながら物事の見え方が変わっていく、時間は過ぎ去るのではなくて積み重なっていくということを感じてもらえるといいと思います」と是枝監督。上映後、満場の拍手と歓声に送られて監督と女優たち5人が会見場に現れた。

いくぶん上気した顔をした女優たちはその感動を「夢のよう」「たくさんの拍手をもらえてすごくうれしかった」「想いが届いたのだなと思った」「幸せです」などと口々に語る。

観客の反応について「小ネタまでよく拾って笑ってくれていました」と監督がいうと「でもここで笑うかな、と思うところで笑ったりしてて、あれ?って思いました」と綾瀬はるか。

そのシーンで綾瀬と絡んでいる広瀬すずも「ここは笑うシーンではないんだけどなぁ、ここで笑っちゃうと、この後どうなっちゃうんだろうって心配しました」と言う。「笑った人も、ここは違うと多分すぐ気がついてくれたとは思いますよ」と監督がすかさずフォロー、和やかでほのぼのした会見になった。【シネマアナリスト/まつかわゆま】

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