第73回ゴールデン・グローブ賞、結果もサプライズだらけ
現地時間の10日、アカデミー賞の前哨戦と言われる第73回ゴールデン・グローブ賞(以下GG賞)がビバリーヒルトン・ホテルで開催された。今回はノミネートの段階からサプライズが多かったが、受賞結果にもサプライズが多かった。
各メディアが伝えているのは、やはりハリウッド外国人記者クラブのメンバーは「大作&スター好きだ」ということだ。一方で、例年と違ってどの部門も突出した最有力候補がなかったことから、どんでん返しのサプライズも期待されていたが、ある意味無難に終わったという見方もある。
映画部門の作品賞には、『レヴェナント:蘇えりし者』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)が輝いた。昨年、コメディ/ミュージカル部門にノミネートされた同監督の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』はオスカーを受賞したが、低予算映画ということもあり、GG賞はスター総出演の『グランド・ブダペスト・ホテル』に作品賞を奪われている。そういった意味でも、事前に最有力とされていた『スポットライト 世紀のスクープ』は、GG賞好みではないと言われていたため、今年は、各賞でサプライズ受賞を巻き起こしている超大作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(ジョージ・ミラー監督)が、作品賞及び監督賞を受賞するのではないかという期待もあった。
ところが、レオナルド・ディカプリオというハリウッドの大スターが名を連ねていることや興行成績も良いこともあって、『レヴェナント~』が監督賞も納得の受賞となった。昨年の経験を踏まえれば、監督賞と作品賞を発表された時のイニャリトゥ監督の驚いた様子は演技ではなく、作品賞で登壇した際に、驚きと喜びでプロデューサーらに話しかけるイニャリトゥ監督に、登壇したレオが、「とにかく話して、話して」と受賞スピーチを促す場面が新鮮だった。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』がドラマ部門でありながら、なぜ『オデッセイ』(リドリー・スコット監督)が、コメディ/ミュージカル部門なのか?というのは、ノミネート発表時から万人の疑問だった。「火星に取り残されたマット・デイモン扮する宇宙飛行士のマーク・ワトニーが、助けが来るまでのサバイバルゲームを演じる一人芝居が、ありえない滑稽な一人芝居と取られたのか?」と揶揄されるほどで、同部門で作品賞、マット・デイモンが主演男優賞を受賞した際にも、司会者や、スコット監督から「この作品がコメディね」と疑問が投げかけられたほどだ。
しかし、同部門で有力視されていた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(アダム・マッケイ監督)でもなければ、オスカー常連のジェニファー・ローレンス主演作『JOY』(デイヴィッド・O・ラッセル監督)でもなく『オデッセイ』が選ばれたことを受け、サプライズと共に、「ドラマ部門では、作品賞も主演男優賞も受賞は無理だった。過去に7回ノミネートされているにもかかわらず、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(98)で最優秀脚本賞を受賞して以来、俳優としては受賞経験がないマットと、『グラディエーター』(00)以来受賞歴がない78歳のスコット監督に敬意を表したかったのでは?」という声まで聞こえてくるとともに、大スター、巨匠を崇拝する傾向を考えれば納得の結果だった。
昨年『博士と彼女のセオリー』で主演男優賞を受賞したエディ・レッドメイン(『リリーのすべて』)との熾烈な闘いが予想されたものの、ドラマ部門の主演男優賞にレオナルド・ディカプリオが選ばれたこと、実在の人物を描きドラマ部門でも良いはずだった『JOY』で、ジェニファー・ローレンスがコメディ/ミュージカル部門の主演女優賞を受賞したのは、スターパワーを示す象徴でもあり順当だったとも言える。
また、一番早く最有力候補が絞られる助演男優賞と助演女優賞で、最有力視されていたマーク・ライランス(『ブリッジ・オブ・スパイ』)ではなく、シルヴェスター・スタローン(『クリード チャンプを継ぐ男』)が選ばれたのは、興行成績と、過去の英雄やスターの復活を歓迎するGG賞らしい結果となった。スタローンは39年ぶり3回目のノミネートにして初受賞だが、同じ役どころ(76年の『ロッキー』ロッキー・バルボア役でもノミネート)でノミネートされること自体が稀で、会場からはスタンディングオベーションが贈られていた。
助演女優賞も、演技力はピカイチで主役を食ってしまうと評判のケイト・ウィンスレット(『スティーブ・ジョブズ』)が受賞したのは、スター好きのGG賞好みと言えば順当だが、本人とあまりにかけ離れた雰囲気のジョアンナ・ホフマン役を見事に演じた実力が高く評価されている。
大本命の一本と言われていた『スポットライト 世紀のスクープ』が、脚本賞も『スティーブ・ジョブズ』のアーロン・ソーキンに奪われるなど総スカンをくらったことで「巨匠、大作、大物志向が浮き彫り」と言われる一方で、ドラマ部門の主演女優賞に大本命と言われていたケイト・ブランシェットやルーニー・マーラ(共に『キャロル』)を蹴落として、ブリー・ラーソン(『ルーム』)が初ノミネートにして初受賞を果たしたことは大きなサプライズとなった。しかし、ルーニー・マーラが主演女優賞にノミネートされていたことから、票割れの結果だったのではないかとも言われている。
日本からは、坂本龍一(『レヴェナント~』)がオリジナル作曲賞にノミネートされ受賞が期待されていたが、惜しくも受賞を逃し、巨匠エンニオ・モリコーネ『ヘイトフル・エイト』が受賞を果たした。
これまでの歴史から、GG賞とアカデミー賞の結果はかなりの違いがあることは明白だが、今回の結果で、より一歩オスカーに近づいた作品や人がいる一方で、少々遠のいた感のある作品や人もいる。アカデミー賞ノミネート発表が現地時間の14日に行われるが、例年以上に予測不能な混戦状態にあり、どのような結果になるのか楽しみだ。【NY在住/JUNKO】
ドラマ部門:作品賞
『レヴェナント:蘇えりし者』
ドラマ部門:女優賞
ブリー・ラーソン『ルーム』
ドラマ部門:男優賞
レオナルド・ディカプリオ『レヴェナント:蘇えりし者』
コメディ/ミュージカル部門:作品賞
『オデッセイ』
コメディ/ミュージカル部門:女優賞
ジェニファー・ローレンス『JOY』
コメディ/ミュージカル部門:男優賞
マット・デイモン『オデッセイ』
助演女優賞
ケイト・ウィンスレット『スティーブ・ジョブズ』
助演男優賞
シルヴェスター・スタローン『クリード チャンプを継ぐ男』
アニメ作品賞
『インサイド・ヘッド』
外国語映画賞
『サウルの息子』
監督賞
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ『レヴェナント:蘇えりし者』
脚本賞
アーロン・ソーキン『スティーブ・ジョブズ』
作曲賞
エンニオ・モリコーネ『ヘイトフル・エイト』
主題歌賞
ライティングズ・オン・ザ・ウォール『007 スペクター』