事件現場を“清掃”するアラフォー・シングルに共感―No.18 大人の上質シネマ
全米ランキングにおけるスクリーン・アベレージ(1館あたりの興行収入)で、並み居るハリウッド超大作を退け、2009年度のダントツの1位に輝いた映画が、この『サンシャイン・クリーニング』だ。
実写版のディズニー・プリンセスに抜擢された『魔法にかけられて』(08)で、全米では遅咲きのニュー・ヒロインとしてブレイクしたエイミー・アダムスが主演ではあるが、物語は地味なヒューマン・ドラマ。心の機微を掬い取った上質な映画には違いないが、ここまでヒットした理由は一体何なのだろうか?
エイミー・アダムス演じる主人公ローズは、“アラフォー”世代のシングルマザー。一家の大黒柱でもある彼女は、パートの仕事をしながら、家事をこなし、腐れ縁の恋人マックとの不倫を続ける日々。まるで“昼ドラ”のような設定だが、ローズの身に起こるある転機がポイントとなる。それが、他人の死の後始末――事件現場のハウス・クリーニング業の起業だ。
刑事である恋人マックから、事件現場の清掃業は大金が稼げるという情報を聞きつけたローズは、ニートの妹と一緒に“サンシャイン・クリーニング”社を立ち上げる。怨恨による殺人、不幸を嘆いて自ら命を絶った自殺など、事件の詳細など聞かなくても、現場は雄弁に物語る。ローズはそうした他人の死を目の当たりにし、清掃によって“リセット”していくことで、自らの人生をも見つめ直していくのだ。このあたり、“納棺師”を主人公にしたヒット作『おくりびと』(08)ともよく似た展開といえるだろう。
そして、本作が多くの支持を集めた最大の理由は、実は普遍的な人生訓がそこにあるからだ。たとえ仕事が成功しても失敗しても人生は続く。「シングルマザーの起業にまつわる奮闘記」とすると、ベタなサクセスストーリーと思われがちだが、誰もが知っている当たり前の事実を物語の軸に据えたことで、リアルさがぐっと増し、観ているうちに心がほっこり温かくなるのだ。
起業したローズが頑張り続けた先に見えてくるもの。それは決して劇的な“チェンジ”でこそないが、現実的に起こり得るささやかな幸福感をもたらしてくれる。長い人生、どこまで頑張ったらいいんだろう? 厳しい世の中、ふとそんな風に考えてしまった時こそ、この映画をぜひお勧めしたい。【トライワークス】