【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第24回 優しい「ふり」
「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第24回は、優しくあることと、優しい「ふり」をすることについて。
第24回 優しい「ふり」
バラエティを見ていたら[ロケ先で休憩中、偶然通りかかった子供に「宝物だけど特別にあげるね」と松ぼっくりを渡されたら家まで持って帰るか]というドッキリ企画をやっていた。当然、その場に置いていったり途中で捨てたターゲットにはスタジオから非難が浴びせられ、大切にカバンに入れ持ち帰ったターゲットには拍手が起こった。
誰だって優しい人が好きだし、私だって皆に分け隔てなく優しくしたいと思っている。が、これがなかなか難しい。頑張って優しくしようとしても、結局優しい「ふり」をしているだけなのだ。
9月上旬は撮影でしばらく地方にいた。ある日の帰り道、コンビニに寄った後ひとりで歩いていると車に乗った男性に話しかけられた。50歳くらいだろうか、快活な声で「お姉さーん!」と呼び止められ話を聞くと、イオンまでの道を教えてほしいとのことだった。東京から仕事で初めてこの地に訪れたが、スマホの充電が切れ道を調べることができないそうだ。
正直、(め、めんどくさい…! というか私、地元の人じゃないんですけど…!)と思ったが、次の角右に曲がって〜、と説明した。だが私たちのいた場所からイオンはなかなか遠く、記憶のみに頼るには無理があった。
「覚えられる自信が…」と言うので正直、(め、めんどくさい…! というか充電器買えば良いのに…!)と思ったが、持ち合わせていたノートに手書きで地図を書き写し渡した。「親切にありがとう」と去っていく男性を見送りながら、優しい「ふり」をしている自分にウンザリした。
先日美容院へ行った時だってそうだ。初めて行くお店だったのだが、その日は朝から舌の裏に長らく潜んでいた口内炎が悪化し、モノを食べたり飲んだりするのは勿論、言葉を発することすら億劫だった。カラー剤を塗られながら口数少なく座っていると、「お客さん、テンション低いですね」と言われ、ええ、と愛想笑いをしていると「でもきっと、カラーして可愛くなったらテンション上がるはずですね」と続いた。
明らかなフリに正直、(め、めんどくさい…! というかこいつ若干失礼じゃないか…?)と思ったが、カラー後は「めっちゃ良い色! めっちゃうれしいです!」とハシャぎながら、またウンザリした。
結局皆に優しくすることなど不可能で、優しさにも順番をつけないといけない。家族や友人、恋人など人によってその順番はバラバラだろうが、その上位のほうに「自分」をもってくるべきだと、私は最近思う。ふりがいつか、ふりじゃなくなることを願って自分にも他人にも、優しくなりたいものだ。
文/松本花奈
●松本花奈プロフィール
1998年生まれ。映像監督。主な監督作に映画『脱脱脱脱17』(16)、『キスカム!〜COME ON, KiSS ME AGAIN!〜』(19)など。テレビ東京のドラマ『あのコの夢を見たんです。』第2&3話の演出を担当。11月6日放送開始のWOWOWオリジナルドラマ『竹内涼真の撮休』にも参加している。