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『アモーレス・ペロス』『最強のふたり』…『わたしの叔父さん』へと続く東京国際映画祭グランプリの系譜

コラム

『アモーレス・ペロス』『最強のふたり』…『わたしの叔父さん』へと続く東京国際映画祭グランプリの系譜

若い女性の選択を描く『わたしの叔父さん』

2020年の第33回東京国際映画祭は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の状況を顧みて、コンペティション部門の審査を行わなかったため(「インターナショナル・コンペティション」、「アジアの未来」、「日本映画スプラッシュ」の3部門を「TOKYOプレミア2020」として一つに統合し、「観客賞」を設置)、『わたしの叔父さん』が現時点で最も新しいグランプリ作品にあたる。

教会で出会った青年にデートに誘われる
教会で出会った青年にデートに誘われる[c]2019 88miles

アマンダと僕』と同じく、本作も叔父と姪との関係性の物語。ただし、こちらは姪の視点が主軸となり、人生の転機を迎えた彼女の選択が一つのテーマになっている。

27歳のクリスは14歳の時に父と兄を失って以来、叔父さんと2人で暮らし、伝統的なスタイルの酪農農家を営んできた。朝早くに起きて、足の不自由な叔父さんの着替えを手伝い、朝食をとり、牛の世話をして、作物を刈り取る。晩ごはんのあとはコーヒーを飲みながらくつろぎ、週に一度はスーパーマーケットへ買い出しに。そんな2人の穏やかな日常に変化が。クリスはかつて抱いていた獣医になりたいという夢を思い出し、男性からデートに誘われる。戸惑いながら広い世界に目を向け始めた彼女を、叔父さんは静かにあと押しするが…。

新しい世界に目を向け始め、どうすればいいのか戸惑う
新しい世界に目を向け始め、どうすればいいのか戸惑う[c]2019 88miles

実生活でも姪と叔父の主演2人による絶妙な笑い


クリス役のイェデ・スナゴーと叔父さんを演じるペーダ・ハンセン・テューセンは、実際に姪と叔父という関係で、ペーダは演技未経験の本当の酪農家だった。そのため、劇中のやり取りは自然そのもので、多くの言葉を交わさずとも心で通じ合っている2人の距離感に説得力を持たせている。

監督を務めるのは、本作が長編2作目となる1980年生まれのデンマークの新鋭フラレ・ピーダセン。小津安二郎の作品の影響を受けたということもあり、なにげない日常にある一瞬のきらめき切り取り、思わずクスッとさせられる絶妙な間合いと独特なユーモアも特徴だ。

体の不自由な叔父さんを家に一人で残すのが心配なクリスは悩んだ挙句、彼を連れて教会で出会った青年マイク(トゥーエ・フリスク・ピーダセン)とのデートへ。若い男女と叔父さんがホテルのレストランでディナーを囲むミスマッチな絵、スクリーンに漂うマイクの気まずさがなんとも言えない。

家に置いていくのが心配で、デートに叔父さんを連れてきてしまう
家に置いていくのが心配で、デートに叔父さんを連れてきてしまう[c]2019 88miles

夢か家族か…普遍的なやさしいジレンマ

一方で、地方で生まれ育ち、夢を追いかけるために都会へ出たピーダセン監督の、離れて暮らすことになった家族への当時の葛藤や悩みも込められた本作。クリスは過去に家族を失った経験があるため、半日家を空けるだけでも、叔父さんが心配で落ち着かなくなってしまう。そんな彼女には自分の道を進んでほしいと思いつつ、強い言葉で突き放そうとはせず、やさしく見守るだけの叔父さんの存在も印象的。2人のような境遇にいる人や経験をした人は大勢いるはずで、その普遍的なジレンマには誰もが共感してしまうはずだ。

【写真を見る】『わたしの叔父さん』のほか、東京国際映画祭でグランプリに輝いた作品をピックアップ
【写真を見る】『わたしの叔父さん』のほか、東京国際映画祭でグランプリに輝いた作品をピックアップ[c]2019 88miles

のちの名監督となるクリエイターも大勢受賞してきた東京国際映画祭のグランプリ。『わたしの叔父さん』のピーダセン監督もまた、これからの活躍が期待される一人だ。そう意味でも、ぜひとも本作をチェックしておきたい。

文/平尾嘉浩

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