スコセッシ、リンチ、レフンらも影響を受けた、唯一無二のアングラ監督ケネス・アンガーを知ってる?
数々の巨匠たちも影響を受けた強烈な作家性
そんなアンガーは、若いころから傾倒していた魔術師アレイスター・クロウリーの影響を感じ取れる神秘主義をはじめ、ドラッグ、バイオレンスなど様々なテーマを作品に盛り込んでいる。『花火』では、自らもそうである同性愛的な描写や性衝動のイメージを描き、一時はわいせつ罪で逮捕されるなど(のちに芸術と見なされ無罪)、個人的かつ前衛的な作品を作り上げてきた。
その強烈な作家性は、マーティン・スコセッシ、デヴィッド・リンチ、デレク・ジャーマン、R.W.ファスビンダー、デニス・ホッパー、ガス・ヴァン・サントといった多くのビッグネームたちに影響を与えてきた。
なかでも大きな影響力を誇っている作品が、バイカーたちの日常とレザーやバイク、 スタッズなどをフェティッシュな視線とともに描いた『スコピオ・ライジング』(63)だ。たとえば、ニコラス・ウィンディング・レフン監督が影響を受けた1作として挙げており、『ドライヴ』(11)の主人公は『スコピオ・ライジング』のサソリをあしらったスカジャンを着用していたりと、劇中には数々のオマージュが捧げられている。
また、この作品をニューヨークで観た三島由紀夫は、日本アートシアター・ギルド(ATG)の主要な映画館「アートシアター新宿」の支配人である葛井欣士郎から新たな映画館の命名を頼まれた際に、劇場に「蝎座」と名付けており、日本の映画シーンともつながりがある作品なのだ。
さらに、この29分ほどの作品には当時のポップミュージックが13曲も使用されており、音楽と映像のコラージュがMVの原型とも言われている。というのも、バイカーが素肌に革ジャンをまとうシーンで、青色のベルベットに身を包んだ女性のことを甘く歌ったボビー・ヴィントンの「Blue Velvet」が流れており、歌が映像に意味を持たせているからだ。
なおこの「Blue Velvet」と言えば、デヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』(86)でも流れている楽曲。リンチはこの時代のオールディーズをたびたび映画内で使用しており、アンガーから大きな影響を受けていることがわかる。
ほかにも、ギャスパー・ノエは『CLIMAX クライマックス』(19)のインタビューで、麻薬のようなものを飲まされて人々が朦朧とするという『快楽殿の創造』(53)と自身の作品の共通点を述べるなど、枚挙に暇がないほど多くの作家たちに影響を与えてきた。
今回のHDリマスター上映では、『ルシファー・ライジング』(80)、『快楽殿の創造』(54)、『我が悪魔の兄弟の呪文』(69)、『人造の水』(53)と悪魔的なテーマが投影されたAプログラム、『スコピオ・ライジング』、『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』(65)、『プース・モーメント』(49)、『ラビッツ・ムーン』(50)、『花火』とフェティッシュな作品が集まったBプログラムと2つに分けて全9作品が上映されるので、ぜひ劇場でそのディープな世界に足を踏み入れてみてほしい。なお、Blu-rayも3月31日(水)に発売となる。
文/サンクレイオ翼