清水崇監督が『クワイエット・プレイス』の“巧さ”を力説!「冒頭10分間で一気に引き込まれた」
「観る側も痛みがわかるリアリティを持ち込むのがうまい」
それでは、このシンプルにして圧倒的な恐怖世界を作り上げたクラシンスキー監督(脚本と父親リー役も兼任)のホラー演出は、清水監督の目にはどう映ったのだろう?その核心に迫ると、「最初に話した冒頭のシーンもそうですが、その世界観をぐだぐだと言葉にしない。説明をいっさい排除し、砂を撒きながら歩いている描写などで“音を出したらヤバい”というのを観客に悟らせてしまうからさすがです。ホラーの枠組みを超えて、監督としての腕がいいんですよ」と絶賛。
「下手な演出だったら、なぜ音を立てたらダメなのか?その理由や背景に話を持っていっちゃうけど、クラシンスキー監督はそんなことはどうでもいいんだよ!っていうスタンス(笑)。それでいて、無理矢理な設定を持ち込むこともなく、床から飛び出している釘を踏んでしまうような、観る側も痛みがわかるリアリティを持ち込むのがうまいです。釘や画鋲を踏んでしまうなんて直接的で短絡的な描写、普通に考えたらあざといし、演出として恥ずかしくて避けますが、それが彼の手腕にかかると安易には見えない。文化や宗教感は国によって違うけれど、日常にある痛みやつらさ、恐怖は世界中の誰もがわかるもの。そこを丁寧にバランスよく描くから思わずウワッとなるんです」と、その確かな仕事ぶりを称賛する。
そんな清水監督が本作で最も慄いたのは、エヴリンの出産シーンだったそう。「あの危険な状況に妊娠や出産シーンを持ち込むのはスゴいですよ。『こんな事態になぜ?』と思った方もいるかもしれませんが、僕は、末っ子を失った痛切さも相まって次の妊娠へ…という経緯に、夫婦の痛みとせつない希望も感じました。出産を経験したことのある女性は特に怖いと思うけれど、経験がない人や男性が観てもあの一連のシーンは怖い。どうしても声が出てしまう瞬間に長男が花火を打ち上げる設定や音の作り込み方も見事で、“そんなにタイミングよく花火が上がるかよ!”というツッコミを入れる隙を与えない緊張感があるのもエンターテインメントとして上手いですよね」と話す。「でも、僕が一番好きなシーンは、ダブルイヤホンをしたエヴリンと夫のリーが、地下室でダンスを踊りながらコミュニケーションをとるシーンです。あれを初めて観た時に感動しちゃって。あんな最悪な状況に陥っている人たちが、感情をちゃんと発散させたり、お互いに思いやりと愛情で歩み寄ったりしているのに、(現実世界の)自分は妻と気持ちが離れているんじゃないか?って考えさせられましたから(笑)」。
■『クワイエット・プレイス』
Blu-ray 発売中
価格:1,886円+税
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
■清水崇監督 プロフィール
1972年7月27日群馬県生まれの映画監督。助監督を経て3分間の自主制作映像を機に1998年に商業デビュー。『呪怨』シリーズ(99~03)が大ヒットを記録し、2004年にはサム・ライミ監督がプロデュースしたリメイク作『THE JUON 呪怨』でハリウッドデビュー。 日本人監督として初の全米興行収入1位を獲得。近作に『犬鳴村』(20)、『樹海村』(21)、Netflixにて配信中の『ホムンクルス』など。
また、総合プロデュースを務める1話完結の短編集「スマホラー」、スマホ動画アプリsmash.にて毎週(水)(金)に新作を続々配信中。
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