孤独な少女を体現し、賞レースを席巻
「いままでで一番難しい役だった」と本作を振り返るチョウは、デビュー作となったチャン・イーモウ監督の『サンザシの樹の下で』(10)のヒロイン役に抜擢されて以来、次から次へと話題作に出演し続けているトップ女優。本作のツァン監督の単独監督デビュー作でもある『ソウルメイト/七月と安生』(16)では、金馬奨最優秀主演女優賞を受賞したほか、その年の賞レースを席巻。本作でもアジア・フィルム・アワード、金鶏奨、香港アカデミー賞ほか主演女優賞を総なめにするなど、人気、実力ともに中華圏を代表する女優であることを改めて証明した。
1992年生まれのチョウは現在29歳。本作の撮影も27歳頃に行われたはずだが、高校生の役がまったく違和感ないことにまず驚かされる。相手役のイーはもとより、ほかの同級生役の誰よりも幼く見えるほど。化粧っ気のない顔は、彼女の童顔をさらに際立たせ、制服もよく似合う。デビューから10年経つのに『サンザシの樹の下で』の時の可憐で素朴な雰囲気が変わっていないのだ。どこにでもいるフツウの女の子というイメージがあるチョウは、同じくイーモウ監督が『初恋のきた道』(99)で見いだした華やか美女のチャン・ツィイーとはまた全然違うタイプにもかかわらず、その存在感と演技力はすばらしく、チャン監督の慧眼につくづく感心してしまう。
自身とは正反対の役を演じ切ったチョウ・ドンユイ
「役を忠実に演じてくれると思って、彼女に決めた」と語るのは、プロデューサーのジョジョ・ホイ。そして「心に傷を持つチェン・ニェンを演じるために、チョウ・ドンユイの雰囲気を消してもらった」という。素顔はとても明るい性格で知られるチョウにとって「今回の撮影は本当に大変だったと思う。チェン・ニェンがいろんなことを我慢する理由を、彼女が分からない時もあった」とツァン監督も話す。
様々な役柄を演じてきたチョウは、「本作はほかの作品と違い過ぎて、考えが追いつかなかった。いままでと同じようにはできなかったわ」と言う。「チェン・ニェンの心の変化を表現するのが本当に難しかった。彼女は受験さえ終われば、母親を楽にできると自分に言い聞かせていたの。撮影では演技が良くても、歩き方を注意されたり、役との違いを監督に指摘されたりした。毎日が手探りだったけれど、監督やプロデューサーが助けてくれた」。