アニメと実写の編集過程、驚きの違いとは?『映画大好きポンポさん』平尾隆之監督&今井剛&松尾亮一郎が鼎談で明かす秘話
杉谷庄吾【人間プラモ】の同名コミックをアニメーション映画化した『映画大好きポンポさん』(公開中)。90分という上映時間のなかに“ものづくり”にかける人々の情熱を見事に映しだし、リピーターが続出。先日には、フィルムへリデザインして上映する企画がクラウドファンディングサイト「MAKUAKE」にて始動するなど大きな話題を呼んでいる。
テンポとリズム感あふれる展開や、映画制作における“編集”の役割にクローズアップした点も大きな魅力となっている本作。そのキーマンとなっているのが編集を担当した今井剛で、平尾隆之監督と制作プロデューサーの松尾亮一郎は「編集は、最初から今井さんにお願いするのが大前提だった」と声をそろえる。
そこでMOVIE WALKER PRESSでは、平尾監督&今井&松尾の3人に集まってもらい座談会を敢行。公開後ということもあり、初公開のエピソード満載の大ボリュームでお届けする本稿では、制作過程で起こった様々な秘話について語り合ってもらうと共に、「るろうに剣心」シリーズなど実写映画の編集マンとしても数々の名作を手がけてきた今井が、アニメの編集の醍醐味を明かした。
※本記事は、作品の展開に関する記述を含みます。未見の方はご注意ください。
「『GOD EATER』では、今井さんとぶつかった」(平尾)「ぶつかりあってこそ、“ものづくり”はおもしろい」(今井)
本作の主人公となるのは、敏腕映画プロデューサー、ポンポさん(小原好美)のもとで製作アシスタントをしている青年ジーン(清水尋也)。映画を撮ることに憧れつつも、自分には無理だと卑屈になっていたジーンが、ポンポさんに才能を見いだされ、映画監督に大抜てき。新人女優のナタリー(大谷凜香)をヒロインに迎えて、映画撮影に挑む姿を描く。
――90分のなかにギュッと“ものづくり”にかける人々の情熱が詰め込まれ、ぐいぐいと観客をスクリーンに惹きつけるような映画でした。平尾監督はこれまでにも今井さんとタッグを組まれていますが、本作には今井さんの力が必要だと思われた理由から教えてください。
平尾「これまでもずっと一緒に作品づくりをしていただいているので、本作の映画化の話が決まった時には、『編集は今井さんにお願いしよう』と決めていました。特に今回は、編集というものがドラマの山場になってきますので、ここはやはり数々の実写映画の編集もされており、編集賞も受賞されている今井さんの力が必要だと思っていました。また監督として携わった『GOD EATER』をやり終えた後、僕としてはなかなか悔しい部分もあって。でも今井さんと居酒屋でお酒を呑んでいた時に、『平尾さんは「GOD EATER」で初めて、監督になったと思う』と言っていただけた。それからは一層、今井さんと作品づくりをしたいと強く思うようになっていました」
――2015年から2016年にかけて放送されたテレビアニメ『GOD EATER』は、平尾監督にとって思い出深い作品なのですね。
平尾「『GOD EATER』では、今井さんとも結構ぶつかった思い出があって(苦笑)。ほぼ全話の絵コンテを僕が描いて、脚本も書いて、すごく大変なスケジュールではあったんですが、そのなかでもなんとか諦めずに『おもしろいものにしたい』と思って取り組んでいて。だからこそ、今井さんにも、自分のやりたいことや意見をきちんと伝えたいと思っていました。そういった姿勢が、今井さんにも『“職業監督”から一歩抜け出すことができた』と感じていただけたのかなと…」
今井「そうですね。作り手として『こだわりを持って作品に向かう』という点で、ただのこだわりではなく、『もう一段上がるためには、どうすればいいのか。どこに悩みながら取り組んでいけば、いい創作物ができていくのか』ということを、しっかりと考えているなと思いました。“ものづくり”の現場では、みんなぶつかってばかりですよ(笑)。実写のベテラン監督たちも、スタッフとぶつかりながら、よりおもしろいものを作ろうとしています。でもぶつかりあってこそ、“ものづくり”はおもしろいんだと思います」
平尾「今井さんには、(2005年放送の)『フタコイ オルタナティブ』のころからお世話になっていて。僕にとって“お師匠さん”みたいなところがあるんです。師匠に意見を言うのは、なかなか勇気のいることでもありますが、そうしていくことで『監督になった』と言っていただけて、ものすごくうれしかったです」
「今井さんの編集の手腕によって、よりいい表現が生まれてくる」(平尾)
――今井さんにとって、平尾監督とのタッグで魅力に感じているのは、どのようなことでしょうか。
今井「実写の監督でお付き合いのある方々は、結構、僕に任せてくれる方が多くて。平尾さんも同じように、絵コンテの段階で、僕に一度預けてくれるんです。『一番いい表現をするためには、どうすべきなのか?』と悩んだ時に、精一杯悩んだうえで出てきたものを提示できる時間を与えてくれる。そこがまずおもしろい点ですね」
平尾「アニメの場合、絵コンテが上がって、それぞれのスタッフの作業が進み始めたら、基本的に絵コンテをいじることはありません。作業が進み始めてから絵コンテを変更したら、アニメーターさんの描いた絵が、無駄になってしまいますから。でもそれがネックになるところもあると僕は思っていて。というのも、編集をして、最終的に物語の時間軸のなかでフィルムを流してみた時に『想定したよりもストーリーが伝わりづらいな』など、致命的な間違いに気づくこともあるものなんです。『フタコイ オルタナティブ』のころから今井さんのお仕事を見ていると、今井さんの編集の手腕によって、よりいい表現が生まれてくると感じていたので、僕は絵コンテを仕上げたら、それをムービーにして、今井さんのところに持って行くようにしています。その段階で自分も気になるところをお伝えして、1、2週間経つと、今井さんが流れを整理してくれたり、追加シーンを提案してくださる。それをまた僕が判断して、追加の絵コンテを描いたりしながら、よりおもしろいものにしていく…というのが、僕と今井さんの作業の特徴です」
松尾「みんなで意見を言いながら、よりよいものを提示して、監督がそれを最終的に判断していく。平尾監督と今井さんのいらっしゃる現場は、『よりよいものを作る』という意識がとても高い場所だと思います。そしてやはり、今井さんにアイデアを提案してもらうと、作品がグッとよくなっていくんですよね。今井さんの編集は、特別だと思います。アニメーションの場合、絵コンテの段階から携わる編集の方も、そんなにいらっしゃらないのではと思います」