「ムーミン」「くまのプーさん」「指輪物語」はここから誕生した!著名作家たちの人生に迫る映画たち
世界中で愛される「ムーミン」と共に成長したトーベ・ヤンソンの創作への取り組みを綴る『TOVE/トーベ』
「ムーミン」誕生の経緯やトーベ・ヤンソンの生き様も赤裸々に綴られる『TOVE/トーベ』。物語の始まりは1944年、第二次世界大戦下のフィンランドはヘルシンキ。激しい戦火のなかで、画家のトーベは自身を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を作っていた。やがて戦争が終結し、廃墟と化したアトリエで本業の絵画制作に取り組もうとする。しかし、昔気質で厳格な彫刻家の父との対立、保守的な美術界への葛藤もあり、トーベは自身の表現について思い悩んでいくのだった。
スナフキンのモデルと言われる、政治家で哲学者、作家にジャーナリストと多方面で活躍するアトス・ヴィルタネンや、トフスランとビフスランのキャラクターに影響を与えた舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーといったトーベの運命を大きく変える人物が次々と登場。さらに、トーベとヴィヴィカによって「ムーミン」が舞台化される様子も描かれるなど、「ムーミン」ファン必見の内容に。
トーベを演じるのは、2014年にトーベ・ヤンソン生誕100年を記念して制作された舞台「トーベ」でも同役を演じ、アニメーション映画『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』(14)ではフローレン(スノークのおじょうさん)の声を担当するなど、なにかと「ムーミン」との縁が深いアルマ・ポウスティ(ポウスティの祖母は「ムーミン」の舞台にも出演した俳優でトーベとも親しく、彼女自身も子ども時代に本人に会ったことがあるのだとか)。様々な恋愛を経験し、自身が生みだしたムーミンと共に成長しながら迷い傷つくなかで、芸術家としての地位を確立していく姿を見事に表現。本国フィンランドでは公開されるや大絶賛で迎えられ、第93回アカデミー賞国際長編映画賞のフィンランド代表にも選出された。
実在の人物にフォーカスした物語は、ノンフィクションだからこそ胸に突き刺さるものがあり、これまで抱いてきたイメージとは違ったバックグラウンドを知る楽しみもある。秋の夜長、名作を生みだした作家たちの半生に想いを馳せてみてはいかがだろうか。
文/咲田真菜