ポン・ジュノ監督×細田守監督の対談をフルボリュームでお届け!アニメと実写、国境も超越した“映画の新たな可能性”とは
「映画は現実に起こっている出来事と無縁ではない」(細田守)
ポン・ジュノ「ストーリーそのものがオフラインとオンラインの間を行き来する。2つの異なる世界が並行して描かれている。最近はカンヌや東京国際映画祭でもオンラインとオフラインの狭間で悩んでいる真っ最中で、それがまさに映画のストーリーのなかで描かれていたと思います。とくにエンディングですずが竜の実際の人物と対面してハグをするシーンは、とても強烈な感動を味わいました」
細田「ありがとうございます。元々はパンデミック前から考えていたストーリーでしたが、現場がコロナ禍となったことで大きな影響を受けたように思います。オンラインによって出会う人が限りなく広がって、世界中の人と出会うことができる一方で、同じ場所にいて同じように向き合って出会う人との関係が重要であると再認識させることができたらなと。パンデミックによって世界中の人がよりそれを実感したのではないでしょうか。映画は現実に起こっている出来事と無縁ではない。とても密接にリンクしていると思います」
ポン・ジュノ「細田さんがこれまで描いてこられた家族というテーマに対する考察もありましたし、2つの世界が同時に描かれてたり、欠乏や傷の克服など、我々が監督の作品で期待するものがさらに深まって描かれていると感じました。特に今回はストーリーのレベルが拡張している。展開が大胆で果敢だとかんじました。長い道のりのなかで新たなステージに登られたような感じも受け取りました」
細田「そう言っていただけてうれしいです。元々は18世紀フランスの『美女と野獣』をモチーフにしたのですが、あれは野獣についての物語でした。野獣の二重性は描かれていたけれど、美女の二重性は描かれておらず、ある意味で時代的な背景があったのかなと。それが現代ではどうなるのかを考え、教室の隅にいる少女がインターネット世界ではスターであるという二重性のなかで、現代ではどういう人を美女とするのかというテーマに辿り着きました。難しい作業でしたが、もうひとりの自分と出会うことで、元々の自分も強くなり守るべき人を守れる。強く変化することを現代では美と呼べる、自分で自分を強くしていくというのがポイントでした」
ポン・ジュノ「具体的な話をしましょう。すずが住んでいる田舎の村がとても美しく描かれていました。またオンライン世界である<U>は以前『サマーウォーズ』で表現された仮想世界よりもさらに立体的に描かれていました。<U>の世界のアートワークをどのようにされたのか気になります」
細田「グローバルな世界を表現する時に、インターネットを通して世界にどんなデザイナーがいるのかを探したのです。劇中ですずがインターネット世界で才能を開花させたように、<U>の世界をデザインする人もインターネット世界にいるのではないかと思いました。そしてエリック・ウォンというロンドンに住む27歳の建築家と出会い、彼にお願いしようと決めました」
ポン・ジュノ「映画の世界と同じアプローチで探されたのですね。<U>の世界とすずの住む現実世界のトーンの違いと同じように、アメリカの野球選手の作画も印象的でした」
細田「実は映画の中に登場する日本以外のキャラクターデザインも、ネットで発見した方にお願いしたのです。テキサスに住むアフリカ系アメリカ人の学生なのですが、作画監督とキャラクターデザインをお願いしました。ほかにもベルのデザインはディズニー作品を手掛けてきたジン・キムさんにお願いしたり、アイルランドのカートゥーンサルーンにも協力してもらったり、国境を超えていろいろな方と作っていきました。アニメはいままで国ごとに分断されてきたけれど、もうそれを飛び越えて、互いに協力しながら新しい流れを作っていけるのではないかと感じています」