ポン・ジュノ監督×細田守監督の対談をフルボリュームでお届け!アニメと実写、国境も超越した“映画の新たな可能性”とは
「どのようにすれば創作活動を続けていけるのか?どうやったら挫けずに映画に向き合っていけるのでしょうか?」
細田「映画を作り続けるというのは本当に大変な力が必要です。だけど映画を作れなくなるのは外的な要因で、作り手そのものはネタが尽きたとかやりたいことが無くなったとかはあまりない。人はいろんなことを感じながら生きている。もしかしたら幸せな人は映画を作る必要はないのかもしれないけれど、そうでない人は作らずにはいられないのかもという気がします。ポン・ジュノ監督はどう思いますか?」
ポン・ジュノ「僕もそのお話に共感します。これは芸術家に限らず、人間であれば誰しもが言いたいことをたくさん持っていると思います。シナリオを書くリサーチの過程でインタビューをすると、最初に話しづらそうにしていたひともどんどん自分の話を聞いてほしいと語り出す。映画を作る人はそれを形にしていくわけですが、どんな人にも自分のことを語りたい、物語に対する欲求というのはあるものだと思います」
細田「僕はアニメをやっているせいか、子どもがいまどういう状況に置かれているのかとか、社会福祉事務所や児童相談所の人と話すことがあるんです。すると、彼ら彼女らの体験をお伝えするんで、形にしてくださいというような気持ちを受け取ることがあり、ある種使命のようなものを感じることがよくあります」
ポン・ジュノ「だからこそ細田さんの作品には人間的な息遣いが感じられるんだと思います。傷や孤独感、息遣いが繊細に描かれているからこそ観客の心を動かしていくことができる。ちなみに僕は映画づくりで挫けそうになった時、よくアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』やジョナサン・デミの『羊たちの沈黙』、黒沢清の『CURE』を観るようにしています。頭が混乱している時にも、これらを観ると心に平静と平和が訪れます。それぞれの監督が持つシネマティックな自信が感じられるからだと思います。細田さんはどうでしょうか?」
細田「実は僕も『竜とそばかすの姫』を作る時に『羊たちの沈黙』を観ました(笑)。主人公が追い詰められることの参考に観たはずだったんですが、最終的には参考とかそっちのけで映画の世界にどっぷりと浸かってしまって…。あと僕がよく観るのは黒澤明監督の『用心棒』です。いつかこういう作品を作りたいという憧れがあるんですが、まだまだ程遠いですね」
ポン・ジュノ「でも『バケモノの子』の熊徹は『用心棒』の三船敏郎っぽさがありますよね(笑)」
「パンデミックをきっかけに世界の人と繋がりやすくなった。そのなかで自分の作りたいものを掴むため、自分自身のアンテナを立てるための努力をしているのでしょうか?」
細田「アンテナということもそうですが、いまは世界中の人がどの国で作られたものでもおもしろければ観るという環境になったことの凄まじさがあります。それは作り手にも影響を与えていて、これまではアメリカ映画、例えばアニメではディズニー作品に参加するためにいろいろな国の人たちが一つの場所に集まっていたけれど、それでは国際共同制作とはいえない。これからは世界中の人がそれぞれの場所から協力しあって、1本の作品を作るようになってくるのではないでしょうか。そして作品の内容も現実を反映したような作品になっていく。いままであった国境の壁みたいなものが、いつの間にか取り払われていくのではと希望を持っています」
ポン・ジュノ「先程のお話にもあったように、今回の『竜とそばかすの姫』で細田さんはまさにそのようなアプローチで作業をされた。自由にネットワークを広げて新しい形を示す。それができるのは、監督の中心にある力強いものがぶれていないからでしょう。創作者の中にある力強い確信や繊細な物事の捉え方や個人的な衝動が、より作品を強くしていくのだと思います。それがあってこそ、気軽で自由に世界と繋がりながら映画を作っていけるのです。そして出来上がった作品はストリーミングを通して国境を超えてリアルタイムで共有される。新しい意味での新しい時代が、いま目の前で繰り広げられていると感じています」
取材・文/久保田 和馬