ポン・ジュノ監督×細田守監督の対談をフルボリュームでお届け!アニメと実写、国境も超越した“映画の新たな可能性”とは
「ポン・ジュノ監督にアニメの新しい可能性を開いていただきたい」(細田守)
細田「ポン・ジュノ監督が作ろうとしているアニメにもそういうところがあるのではないでしょうか?どのように作られているのか教えてください」
ポン・ジュノ「実はですね、公式に僕のフィルモグラフィとして紹介されているわけではないですが、僕が生まれた初めて作った作品は短編アニメだったんです」
細田「!?」
ポン・ジュノ「大学の映画サークルで作ったのですが、人形を使ったストップモーションアニメだったのです。ただ、この作業があまりにも大変で、1日に2秒か3秒しか作ることができない。それで実写に移っていったんです」
細田「それを聞いて驚きと共にいろいろ納得がいきました。『グエムル』の時も『オクジャ』の時も、監督のなかにアニメスピリットが流れていると感じていたので。ちなみにその作品は、どこかで観られるのでしょうか?」
ポン・ジュノ「家にありますが、外部への公開は防いでおります。公開されたら大災害ですよ(笑)。『グエムル』や『オクジャ』でCGアニメーションのキャラクターを扱った経験をもとにして、今回は本格的なCGアニメを作ってみようと思っているんです」
細田「どういうものを作られるのか、ワクワクしてしょうがないです」
ポン・ジュノ「細田監督の最近の作品を観ると、セル画とデジタル画が奇妙に美しく混ざり合っていて、どういうアプローチをされているのか気になっていたんです」
細田「それは15年ぐらい前に『時をかける少女』で海外の映画祭を行った時からよく言われてきた、『どうしてCGアニメを作らないのか』という話にもつながっています。CGはすばらしい技術ですが、もちろん優秀なアニメーターが描く1本の線もすばらしい。そういうものを僕らアニメーション製作者は手放すべきではないと思っているのです。CGか手描き、どちらも単なる技法でしかない。どっちもいいところがあるわけで、僕は一つの作品のなかに両方の技法を重ね合わせることで相乗効果を生みだしたいと思っているのです。ポン・ジュノ監督はCGアニメを作られるとおっしゃいましたが、それはこれまでの経験の蓄積の上でのアニメーションなのでしょうか。それとももっと新しいなにかがあるのでしょうか?」
ポン・ジュノ「長編アニメは初めてですので、容易いことではないとわかっていますが、あまり観たことのないような新しいトーンのビジュアルを作っていきたいと思って試行錯誤を重ねているところです。CGだけど、もっと人間的な感触が伝わってくるもの。人間的な情緒や香りが詰まったCGを作ってみたいと思っています。もしよろしければ、細田さんに一度直接伺って指導を仰ぎたいです」
細田「ポン・ジュノ監督にアニメの新しい可能性を開いていただきたいと思います。ちなみに内容は深海の話だとお聞きしましたが」
ポン・ジュノ「そうです。フランスの科学書籍を妻が本屋で見つけてプレゼントしてくれたのが始まりでした。生きているうちに直接出会うことのない深海数千メートルの奥底に住む生物たちは、独特な美しさやカラーを湛えていて、すでにアニメ的なカラーを持っていました。同じ地球に住んでいるけどなかなか出会えない、まったく日の当たることのない主人公たちが、ある事件を通じて人間たちと出会ったりするストーリーを構想することになりました。今年頭からシナリオを書いていて、スタッフたちとあれこれ考えながら準備をしています」