ポン・ジュノ監督×細田守監督の対談をフルボリュームでお届け!アニメと実写、国境も超越した“映画の新たな可能性”とは
「カンヌからオスカーまでの道のりは事件でした」(ポン・ジュノ)
細田「僕が聞きたいのは、“越境”というテーマです。それまでの映画の世界のなかにあった高い壁を打ち崩したのがポン・ジュノ監督。ブレイクスルーをして、それまであった国境の壁を崩すことで映画の新しい価値を世界中に見せつけてくれました。それを成し遂げた監督が新しい作品を作る上で、越境を意識することやご自身の体験は物語に影響していくのでしょうか?」
ポン・ジュノ「正直なところ、そこはよくわからないのです。僕は個人的な衝動に忠実に、絶えず映画を作ってきました。映画を作るというその過程に没入する人間なので、まずは完成させることにすべての神経を集中させる。完成した後にそれがどのように出ていくのかは僕のコントロールが及ばない部分です。『パラサイト』は僕自身の映画のなかで最も個人的なことを描いた作品だと思っています。目的意識を持ってアプローチしたわけではなかったので、これだけ世界中の人に受け止められたこと、特にカンヌからオスカーまでの道のりはまさに事件でした」
細田「それは作品が含む小さな壁を越える行為そのものが、よりたくさんの人々の思い当たるものだったということだと思います。実際、越境やグローバルと言っても、身近で些細ななんでもないことであっても世界中に同じことを思って悩んでいる人がいるかもしれない。映画はそういう様々な人とコミュニケーションできるカギのような気もしています」
「役所広司さんをお迎えして映画を作りたい」(ポン・ジュノ)
ポン・ジュノ「『竜とそばかすの姫』で描かれた身近な人たちとのコミュニケーションの難しさといえば、大きな出来事を経験して戻ってきたすずが、それまでほとんど会話をしていなかった父から焼き魚を食べようと言われるシーンでじわじわとくる感動がありました。あれは家族の映画を描きつづけてきた細田さんならではの情感だったと思います。ちなみに僕は映画を観終わったあとに焼き魚を食べました。あの父親役の声優さんは役所広司さんですよね?」
細田「そうです。出番はわずかですが、それまでの父親の葛藤というか娘を思う気持ちがうまくいかなかったことを見事に表現してくれました。すばらしい俳優さんにあの役をやっていただけたことをうれしく思っています。もしも役所さんをポン・ジュノ監督が演出されたら、と夢想してしまいます」
ポン・ジュノ「僕も役所さんをお迎えして映画を作りたいとずっと思っています。細田さんや黒沢清さん、西川美和さん、是枝裕和さんも役所さんと一緒に仕事をされていますよね。羨ましいという気持ちと嫉妬心も芽生えています。役所さんと映画を撮るならどんなものがいいかなと考えますと、例えば若い漫画家の元に門下生で入って苦労するアシスタントとかどうでしょうか」