現代と過去が交錯するホラー『ラストナイト・イン・ソーホー』、名優競演のミステリー『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、二人の女性の夢と恐怖が重なっていくエドガー・ライト最新作、天才的な腕前を持ちながらデビュー目前に失踪したヴァイオリニストの真実に迫るミステリー、ナレーションも音楽もなく、映像表現と音響で表現する動物たちのドキュメンタリーの、心を揺さぶられる3本!
ライト監督のセンスの良さを再確認できる逸品…『ラストナイト・イン・ソーホー』(公開中)
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)で知られるカリスマ監督エドガー・ライトが本格派のスリラーに挑む!主人公は服飾デザイナーを目指して地方からロンドンに上京してきた少女。古アパートの屋根裏部屋に住み込んだ彼女は、1960年代の歌手志望の女の子の幻影を見るようになる。そこに隠された衝撃の事実とは!?現代のヒロインの歩みが1960年代の女子とシンクロする絶妙なストーリーテリング、ヒロインの精神の崩壊をとらえたサイコな空気、そして殺人ミステリー。それらが絡まりあって緊張感をあおり、驚くべき結末へと誘う。60年代スウィンギング・ロンドンの空気を伝えるポップスの名曲の配置を含め、ライト監督のセンスの良さを再確認できる逸品!(映画ライター・有馬楽)
観客も一緒になって失踪の理由を追い求めてしまう…『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』(公開中)
『レッド・バイオリン』(98)、『シルク』(07)の名匠、フランソワ・ジラールが監督を務めた音楽ミステリー。音楽業界に身を置く主人公、マーティン(ティム・ロス)が、35年前に突然失踪した天才ヴァイオリニストの親友、ドヴィドル(クライヴ・オーウェン)の面影を見つけ、彼を見つけようとする。物語は、ポーランド系ユダヤ人のドヴィドルがロンドンのマーティン家に疎開してくる第二次世界大戦下が舞台の少年期、ドヴィドルが姿を消す青年期、親友を捜してマーティンが奔走する現在の3視点で進行。マーティンとドヴィドルの友情が育まれていく様子が瑞々しく描かれることで、観客もマーティンの心情とシンクロし、ドヴィドルがなんの説明もなく失踪した理由を一緒になって追い求めてしまう。それだけに、その真相が明らかになった時、そこにある歴史的な悲劇に愕然とさせられる。『海の上のピアニスト』(99)で天才ピアニスト、1900(=ナインティーン・ハンドレッド)を演じていたロスが、約20年の時を経て、今度は同作における親友のマックス側のポジションを演じているのもおもしろいポイント。音楽が題材というだけあって、全編にわたって流れるパガニーニやブルッフ、ベートーヴェン、クライスラーによるクラシックの名曲たちにも酔いしれる極上の1本だ。(ライター・平尾嘉浩)
永遠に続いていってほしい夢のような世界…『GUNDA/グンダ』(公開中)
豚の親子で幕を開ける農場ドキュメンタリーは映像の1カット、1カットがアートのように美しい。集団行動が苦手でついはぐれる子豚とそれを見逃さない母豚。朝日に吠える鶏の群れには一本足でも気高く生きる一羽の雄鶏がいる。そして、意識的なのか、無意識なのかなぜか種類ごと、柄でペアになって、佇む牛たち。モノクロでありながら、どんな小さな表情、動きも逃さず、毛質や筋肉の躍動までも伝わる映像にやがて動物たちの個性やキャラクターが透けて見えてくる。動物たちが言葉を発しないように、作品には台詞、ナレーションは全くない。聞こえてくるのは風の音、鳥の声、動物たちの暮らす音。牛の周りでは蠅が騒々しく飛びまわり、轟く雷鳴とともに大地に雨が降り注ぐ。ずっと見ていたい、聞いていたい、永遠に続いていってほしい夢のような世界。だが突然、トラクターの人工的な音で均衡は破られる。エンディングはやけにドラマティック。後に残るのは、ベジタリアンのホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーに名乗りをあげたのも納得の余韻。(映画ライター・高山亜紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!
構成/サンクレイオ翼