マーク・ラファロ主演『ダーク・ウォーターズ』、濱口竜介監督の短編オムニバス『偶然と想像』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、実話をもとに大型企業による環境汚染を巡り弁護士が奮闘する衝撃作、濱口竜介監督が“偶然”を軸に3つの物語を描く短編集、『ベニスに死す』で世界中から注目を浴びた少年の当時と“いま”を映すドキュメンタリーの、ハラハラする3本!
怒りや信念が、辛いほど伝わって来る…『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(公開中)
即座に『エリン・ブロコビッチ』(00)が思いだされるが、どちらも実話で、味わいは対照的。外連味のきいた『エリン~』の快哉も最高だったが、長く地味な闘いを強いられた本作のやるせない感触も忘れ難い。1998年、名門法律事務所の弁護士のロブ(マーク・ラファロ)が、見知らぬ中年男性に大手化学企業デュポンに汚染された農地の調査を依頼される。企業側の弁護が専門のロブは断るが、見捨てられずに農場を訪ね…。以降は予想通り、巨大企業に対し訴訟を起こそうとする展開に。だがこれも予想通り、大企業の汚いこと。いろんな妨害で“有害”証明が遅々として進まない。それでも不正を暴き、環境汚染問題として地域全体を巻き込んでいく展開に息詰まる。まさに命がけ!ついに十数年にわたる闘いの結果、集団訴訟に踏み切るが――。ラファロの体内に溜まっていく怒りや信念が、辛いほど伝わってくる。ラファロから直々のオファーで監督を引き受けたのは、『エデンより彼方に』(02)、『キャロル』(15)の鬼才トッド・ヘインズ。いきなり社会派に挑んだが、その腕に惚れ惚れ!変わらぬ大企業の体質、政府との癒着、のっぴきならない環境問題。もはや誰もがいま、観るべき必見作だ。(映画ライター・折田千鶴子)
セリフを放つタイミングが恐ろしいほどに完璧…『偶然と想像』(公開中)
『ドライブ・マイ・カー』(21)に続き、濱口竜介監督の才能を実感する本作。3つの短編から構成されるが、そのどれもがタイトルどおり「偶然」の出来事に始まり、そこから登場人物の「想像」がとんでもない展開をみせていく。親友のヘアメイクアーティストから気になる男性のことを打ち明けられるモデル。就職内定が取り消しになった大学生が、その原因を教授に向ける怒り。そして同窓会に出席した女性が翌朝、すれ違った見覚えのある相手…と、3つの物語は、できるだけ最小限の前情報で向きあえば、果てしない驚きと感動が待ち受ける。「偶然」が発端なので、よく考えればこれらの物語は、なかなか日常では起こりそうにないことばかり。それなのに、まるで自分が体験したかのように感じるのは、濱口監督が紡ぐ巧みなセリフと、俳優たちがそのセリフを放つタイミングの恐ろしいほどの完璧さによるもの。無音の時間にも、心情が絡みあう、これこそまさに映画のマジック!ベルリン国際映画祭では審査員グランプリを受賞した。(映画ライター・斉藤博昭)
哀切にして数奇な人生の物語を見届けてほしい…『世界で一番美しい少年』(公開中)
巨匠ルキノ・ヴィスコンティに見出され、16歳で『ベニスに死す』に出演し、世界的な人気者となったビョルン・アンドレセンのドキュメンタリー。スターとなった時期の記録映像とともに、現在のアンドレセンの日常や回想を織り交ぜる。“世界で一番美しい少年”ともてはやされ、わけもわからぬまま狂騒に揺さぶられる男の子。これにより彼の運命は、予想外の方向へと向かってしまう。オーディション風景で服を脱ぐことを強要される場面もあるが、現代の目線では子どもへの虐待に見えなくもないし、アンドレセンの娘はきっぱり“虐待”と言い切る。そこから始まる名声は彼の心にどんな傷を残したのか?哀切にして数奇な人生の物語を見届けてほしい。(映画ライター・有馬楽)
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構成/サンクレイオ翼