増村保造、日本映画にヨーロッパを取り入れた先駆的モダニストの軌跡
20作品で組んだ黄金タッグ!若尾文子主演作は名作ぞろい
そんな『青空娘』を皮切りに、増村と若尾は実に20作品でタッグを組む。若尾は2016年に自身の出演作を特集上映した「若尾文子映画祭 青春」の初日舞台挨拶に登壇した際、「演技に対して特に細かい注文はされませんでした。ただ自分の考えを役者にキチッと伝えようとする厳しい面も持ち合わせている方でした」と、現場での増村の様子を振り返っていた。それはつまり、増村は若尾のそのままの魅力を引きだしながら、若尾自身に役柄に向き合い深く理解する力を養わせようというねらいがあってのことだろう。
それを象徴するように若尾は、『最高殊勲夫人』(59)や『女経』(60)などの作品においては軽やかで自発的な女性を演じ、同時に“ファム・ファタール”としての魅力を開花させることで絶大な人気を確立していくのである。そして『妻は告白する』(61)で一気に演技派女優として開眼。増村の初期作品『氷壁』(58)との類似性も感じる同作は、登山中に夫のザイルを切断して死に追いやった若尾演じる女性が裁判にかけられる法廷ドラマとしての側面と、その女性の壮絶な過去と内情と迫っていく緻密な愛憎の物語がわずか90分ほどの上映時間のなかに凝縮されていく息もつかせぬ力作だ。
そこからは岸田今日子と共演し谷崎潤一郎の同名小説を忠実に映像化した『卍』(64)や、夫への愛情から狂気に走る妻を演じた代表作『清作の妻』(65)、そして目を背けたくなるようなリアリズムに満ちた空気感のなかで従軍看護婦を演じた『赤い天使』(66)など、増村によって引き出された女優・若尾の魅力によって不朽の名作が次々と生まれる。増村の師である溝口も女性描写について秀でた監督として知られているが、増村はそれ以上に先進的な視点を持ち合わせていると見え、その点においても決して古さを感じさせない。
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