増村保造、日本映画にヨーロッパを取り入れた先駆的モダニストの軌跡
文芸色を強めた1960年代後半…大映最後の作品は原点回帰に
増村の作風は1960年代中頃になると急速に貫禄が増す。それは後にシリーズ化される『兵隊やくざ』(65)や『陸軍中野学校』(66)のような骨太の作品が目立つようになったことはもちろん、一気に文芸色が強まるからであろう。当時の日本映画は小説原作の作品が頻繁にあり、改めて振り返れば増村のフィルモグラフィのほとんどがそれに当たる。しかし前述した『卍』以降、『刺青』(66)や『痴人の愛』(67)と立て続けに手掛ける谷崎作品や三浦綾子原作の『積木の箱』(68)と、これまでの軽やかな作風とは180度異なるエロティックな題材が選ばれ続ける。際たるものは江戸川乱歩を原作とした『盲獣』(69)という怪作であろう。
1957年のデビューから年3〜4本のペースで作品を発表しつづけ、大映で制作した作品はオムニバスを含めて48作品。1971年に大映が倒産する直前に公開された『遊び』(71)は、野坂昭如の小説「心中弁天島」を原作としており“文芸映画”のくくりに入る作品だが、そのテイストはどこか初期の頃に回帰したようにも見える。関根恵子演じる少女と大門正明演じる少年が出会い、惹かれ合いながら彷徨いつづける。二人の主人公が共に家族に問題を抱えていることなど、『くちづけ』を想起させる設定に無軌道な行動。演出の安定感は増して若々しさこそ減少しながらも、類似したモチーフによってそこに変わらぬ“増村イズム”があることがはっきりと見えるのは興味深い。
再来年の2024年に生誕100年の大きな節目を迎える増村。さらに1974年に白坂とのタッグで映画化される予定だった太宰治の「斜陽」が、当時その企画に助監督として参加する予定だった近藤明男監督のメガホンで半世紀越しに『鳩のごとく 蛇のごとく 斜陽』(2022年公開)というタイトルで映画化されることも報じられるなど、モダンでおもしろい日本映画の良さが詰まった“増村イズム”が現代によみがえることへの期待も高まる。
Apple TVアプリの「MOVIE WALKER FAVORITE」チャンネルでは、現在「増村保造が描く男と女」と題した特集が組まれ、当コラム内で紹介した『青空娘』、『女経』、『妻は告白する』、『卍』、『兵隊やくざ』、『清作の妻』、『刺青』、『赤い天使』、『遊び』のほか、『からっ風野郎』(60)と『やくざ絶唱』(70)の11作品が配信されている。増村保造という“新しい旧作”と気軽にめぐり逢えるというのは、配信時代の最高の醍醐味ではないか。
文/久保田 和馬
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チャンネル名:MOVIE WALKER FAVORITE
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