『とんび』では阿部寛&北村匠海が熱演。俳優の魅力を引き出す、重松清作品の滋味深さ
直木賞作家、重松清の同名ベストセラー小説を『64-ロクヨン-前後編』(16)、『糸』(20)などの瀬々敬久監督が映画化した『とんび』(公開中)。いつの時代も変わらないと父と息子の絆を描いた本作は幅広い年代の観客から支持されているが、その成功には、酒飲みで喧嘩っ早い不器用なヤスとそんな父親のもとで健やかに成長していく息子アキラに心血を注ぎ、魅力的な人物にした阿部寛と北村匠海の好演が大きく影響していることは言うまでもない。
そもそも家族や夫婦、親子や師弟といった関係の中で人と人との絆や思いやりの心を感じながら成長していく男性を描くことが多い重松作品は、映画との親和性が高い。実際、これまでにも数多くの代表作が映画化され、主人公の男性を演じた俳優の熱い演技も注目を集めてきた。そこで本コラムでは、映画化された重松作品を振り返りながら、それぞれの作品の男優陣の芝居にフォーカス!重松ワールドの魅力に迫っていきたい。
まずは、父と娘との交流と成長を見つめた『ステップ』(20)。飯塚健監督が手掛けた本作は、妻に先立たれて男手ひとつで娘を育てることになったサラリーマンの10年間の軌跡を描いていたが、ドラマの「闇金ウシジマくん」シリーズ(12~16)や映画『凶悪』(13)、Netflix『全裸監督』(19・21)などの奇抜な作品で個性的なキャラを演じることが多かった山田孝之が等身大のシングルファーザーを演じたことも話題に。仕事と子育てを両立させようと奮闘するも、どちらも上手くいかなくて「もうダメかもしれない」と根を上げそうになる主人公を、山田がどこにでもいそうな優しい父親として体現。娘を年齢ごと演じ分けた3人の子役と会話する姿も本当の父親のようで、苦しくても大切なことを見失わずに懸命に生きていく親子の姿が大きな感動を呼んだ。
中井貴一の主演で重松の小説「アゲイン」を映画化した大森寿美男監督作『アゲイン 28年目の甲子園』(14)も、同じ高校野球を題材にしながら大切なメッセージをストレートにぶつけてくる。本作はある事件のせいで甲子園の土を踏む機会を逃した過去を持つ中年オヤジが、かつての仲間と一緒に元高校球児たちの祭典「マスターズ甲子園」を目指して奮闘する姿を見つめていく。決して野球の映画ではないが、クランクイン前にトレーニングを重ねて野球のプレイまでも自分のものにした中井の嘘のない芝居が主人公が再認識する生きる喜びを伝え、観る者の胸を熱くする。背中を押された人も多いに違いない。