一筋縄ではいかない関係性に心揺さぶられる…『カモン カモン』とあわせて観たい“おじさん”映画
友だちのようなおじさんに心奪われる不朽の名作『ぼくの伯父さん』
“おじさんムービー”で挙げないわけにいかないのが、ジャック・タチ監督による『ぼくの伯父さん』(58)。アカデミー賞外国語映画賞を受賞したこのクラシックは、タチ自身が演じる変わり者の独り者、ユロおじさんが巻き起こす騒動を描くコメディだ。
工場を経営する裕福な一家に生まれ、モダンな家に住む少年ジェラールは、息の詰まるような家にいるよりも、下町で気ままに暮らす無口だが優しくおしゃれなユロおじさんと遊ぶのが大好き。そんなおじさんのことを心配するジェラールの両親は、仕事やお見合いなど、なにかと世話をしようとするのだが…というストーリーが繰り広げられていく。
本作の魅力はなんといってもおじさんのゆるーいキャラクター。無職でドジだけど、そんなの気にしないとばかりにマイペース。ジェラールのいたずらを一緒に楽しむようなおちゃめかつ無責任な一面は“ザ親戚のおじさん”といったところ。チャーミングかつクールな人物像は、ジェラールが一緒に遊びたがるのも無理はない。
特別な才能を持つ姪の育て方に葛藤…『gifted/ギフテッド』
クリス・エヴァンス主演の『gifted/ギフテッド』(17)は、特別な才能に恵まれた姪と、彼女を普通の子として育てようとするおじとの生活が綴られるヒューマンドラマ。姪の教育の方針を巡り、姪の祖母である自分の母と親権を争うことになり、2人の関係の危機が描かれていく。
生まれてまもなく母を亡くした7歳の少女メアリーは、船の修理工のフランクと隻眼の猫と共に平穏な日々を過ごしていた。そんななか、学校が始まり、メアリーが数学の特別な才能を持っていることが明らかに。亡き姉の願いからフランクはメアリーを特別扱いすることを拒否するが、祖母イブリンは特別な教育を受けさせるため、2人を引き離そうと親権を巡る裁判を起こしてしまう。
メアリーのことを愛しながらも決して特別扱いしないフランクと、おじのことを慕いながらも友人のように接するメアリー、親子とは異なるどこか軽やかな2人の関係性がなんとも微笑ましい。その裏にはメアリーのことを一番に考え、自分の存在が害になるのではと悩むフランクの葛藤や、彼と離れたくないと願うメアリーの愛が見え隠れしており、親子でなくとも築ける絆が感動的な1作だ。
なかなか縮まらない距離感をリアルに描く『悲しみに、こんにちは』
『悲しみに、こんにちは』(17)もまた、母を亡くし、おじ夫婦の元で暮らすことになる少女が主人公のヒューマンドラマ。2022年のベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した注目のスペイン人監督カルラ・シモン自身が、初めて生と死に触れた幼少期の出来事に基づく物語で、第67回ベルリン国際映画祭では新人監督賞を受賞するほどの高い評価を集めた。
両親をとある病で失った少女フリダは、バルセロナの祖父母の元を離れ、田舎暮らしをするおじ一家で生活を送ることに。母の入院中、祖母たちに甘やかされて育った都会っ子のフリダを、おじたちは家族の一員として温かく迎え入れるが…。
突如変わった環境に放り込まれたフリダの視点からおじたち一家との関係が綴られており、新たな家庭への戸惑いや孤独感、とある言動から生じてしまったぎこちない家族仲もシビアに映しだされていく。そんな時に衝突しながらも、少しずつ着実に縮まっていくフリダとおじ一家の距離感やフリダが抱えていた感情を吐き出すラストは心に刺さることだろう。
おじという存在だからこその親子とは違う、時にユーモラスで、時にせつなく、また気まずくもある、一筋縄ではいかない関係が描かれているこれらの映画たち。ぜひ『カモン カモン』と共にチェックしてみてほしい。
文/サンクレイオ翼