“新・山の神”柏原竜二が感じた『バブル』が描くバトルクールと駅伝の共通点…「誰しもが孤軍奮闘しなければならない時がある」
「作品について考える時間が増えるだけ、その作品にハマることにもつながる」
クリエイター陣やアニメーションの魅力をひとしきり語ったあと、話題はストーリーへ。『バブル』は、ハンス・クリスチャン・アンデルセン作の童話「にんぎょ姫」をモチーフに、少年ヒビキと謎の少女ウタの恋模様を描きだす。荒木監督曰く、「“ある少年に泡が恋して少女になる”という発想で本作の物語の骨組みを作っていった」とのこと。このモチーフに柏原は「『にんぎょ姫』が現代版にしっかり落とし込まれている」と説明する。
「ディズニー・アニメーションの『リトル・マーメイド』は知っていたものの、童話の『にんぎょ姫』はあまり知らなくて。この歳になると童話に触れる機会も少なくなるので、現代的にアップデートされた大人でも観やすい独自の『にんぎょ姫』の世界観だなと感じました。そして、観終わったあとは、胸を張って『「にんぎょ姫」って実はこういう話なんだよ』と語りたくなります。僕の娘がいま1歳で、最近『リトル・マーメイド』を観るようになったのですが、大きくなったら、実は原作はこうなんだよと教えたいと思います(笑)」。
また、ストーリーについては、「余白があるのがよかった」とも評価している。最近のアニメは説明調な作品も多いが、本作はキャラクターのバックボーンやキャラクター同士の関係性、作中で描かれる事象の理由など多くは語られない。本編を鑑賞してすぐのことを振り返り、「語られなかった部分を自分なりに考えながら帰るのがすごく楽しかった」という。
「スタッフの方たちにしかわからない要素を、視聴者が解いていく作業はおもしろいですよね。余白があると自分なりの解釈を考える時間が増えるじゃないですか。作品について考える時間が増えるだけ、その作品にハマることにもつながる。『バブル』はどんどん考えることができたんです。なにも考えずに観られるアニメももちろん好きですが、余白のあるアニメもいいよなと改めて感じました。でもいつか、荒木監督と虚淵さんが(本作の)謎について語ってくれたらいいなとも思います」。
「この瞬間からヒビキは変わったんだ!と思える流れはすごく自然に感じました」
『バブル』の物語を語るうえで必要不可欠な要素が、主人公ヒビキの“成長”だ。彼は生まれつき特殊な聴覚の持ち主で、人よりも過敏に音へ反応してしまう。ゆえに他人とのコミュニケーションをあまり好まない性格だが、その特殊な聴覚を生かし、パルクールにおいては天性の才能を発揮する。そんな彼がウタと出会うことにより、徐々に仲間と打ち解け、成長していく姿が描かれる。柏原はヒビキの変化に対して「成長していく姿が丁寧に描かれていてすごくよかった」とコメントした。
「コンプレックスのあるヒビキがウタと出会い、徐々に心情が変化し、チームに溶け込んでいく。それによってチームの仲間たちはヒビキの抱えるコンプレックスを個性として受け取るようになっていく。例えば、ヒビキと、ヒビキが所属するチーム『ブルーブレイズ』のリーダーであるカイ(声:梶裕貴)は、視座がまったく異なっていたのですが、徐々に同じ視座にすり合わさる。それは紛れもなくウタとの出会いが影響しているとわかるのがおもしろい。この瞬間からヒビキは変わったんだ!と思える流れはすごく自然に感じました。また、そんなキッカケはウタにしか作れなかったと思います」。
1989年生まれ、福島県出身。中学時代から陸上競技をはじめ、東洋大学陸上競技部に所属。箱根駅伝に出場して3度の総合優勝に貢献。4年連続5区区間賞を獲得した。卒業後実業団へ進み、全日本実業団対抗駅伝に出場。2017年に現役を引退。現在はスポーツ活動全般への支援、地域・社会貢献活動などを担当し、幅広く活動している。