「原作のラストシーンを成立させるのに10年かかった」プロデューサー&担当編集が語る『ホリック xxxHOLiC』制作秘話
CLAMPの大ヒットコミックを蜷川実花が実写映画化した『ホリックxxxHOLiC』(公開中)。ビジュアルが美しいことで知られる両者の組み合わせは、まさに奇跡のコラボレーションだが、なんと構想に10年を費やしたという。長い歳月を経て実現した『ホリックxxxHOLiC』の舞台裏を、プロデューサーの宇田充、CLAMP担当編集の桂田剛司に語ってもらった。
「映画では、原作の結末をゴールに物語を作り上げていった」(宇田)
宇田「映画『ホリックxxxHOLiC』は、ラストシーンが最初から決まっていたんですよ。10年かかった理由のひとつでもあるのですが。詳しくはネタバレになるのでぼかしつつ言うと、映画のラストに来る“あのシーン”こそが、蜷川さんが一番やりたいことのひとつでした。そのラストにするために、どういう脚本にしたらいいかを、ああでもないこうでもない…と」
桂田「何十本と脚本をいただきましたよね。CLAMP先生の場合、メディア展開する作品については、がっつりと制作に入るか、完全にお任せするかの二択で、今回は後者でした。クリエイターの方が原作のどこかしらに魅力を感じ、そのうえでご自身の作りたいものがあってオファーをしてくださると思うので、一度お任せすると決めた場合、口出しされることは一切ないですね。作り手の方の意図を尊重して、どういうものが出来上がるのかを純粋に楽しみにしていらっしゃいます。だから今作についても、脚本やイメージボードなどすべて事前にお見せいただきましたが、ひたすら『進めてください』とお戻ししていました」
宇田「映画サイドで脚本がなかなか固まらなかった間も、桂田さんにはたくさん相談に乗っていただきました(笑)」
桂田「2時間の映画でまとめるのに頭を悩ませましたよね」
宇田「初期に映画としてのクライマックスのためにループが入り、縦筋を主人公の対価が一番大切なものにして、大切なものに気づく形になり、最終的には、オリジナルキャラクターのアカグモを投入して、説明役として物語を推進することでまとまりがよくなったのではないかと思います」
「CLAMP先生と蜷川監督の的確な判断は、侑子さんっぽい」(宇田)
桂田「今回、一緒にお仕事させていただいてすごく驚いたのが、プロジェクトが動き出してからの蜷川さんのジャッジのスピードです。CLAMP先生も早いんですが、とにかくお2人とも判断が早い!」
宇田「ああ~!」
桂田「CLAMP先生って、基本的に打ち合わせ時間が短いんですよ。お酒を飲んでいる時間のほうが長いくらい(笑)。毎朝なにかしらの案件でやり取りをしているのですが、すごい数の案件を相談しても、すべて即レス。そこは、蜷川さんも同じですよね。今回、映画の写真集を一緒に作らせていただいて、判断が早くて迷いがないと思いました。なにか変更や指摘をする時も、大きな方向性を早く的確に指示してくださいます」
宇田「その的確さが、ちょっと侑子さんっぽいんですよね。蜷川さんが初めてCLAMP先生にお会いした時に『侑子さんみたい』っておっしゃっていたんですが、僕からしたら蜷川さんもだいぶ侑子さんっぽい(笑)」
「『xxxHOLiC』はもともと、CLAMP作品のキャラクターが立ち寄れる世界として作った」(桂田)
桂田「こうして考えると、お2人は共通項が多いですよね。映画のお話をいただいた時点で一番に感じたのは、世界観の相性のよさでしたから。なので先生も『蜷川さんに撮っていただけるなら喜んで』という感じで」
宇田「まずなによりビジュアル面での親和性ですよね。CLAMP先生のビジュアルの素晴らしさは説明するまでもないですが、蜷川さんも衣装や美術などビジュアルについての判断は『呼吸するようにできる』といつもおっしゃっています。原作の侑子が毎回違う衣装を纏っているように、映画でも侑子は登場シーンごとに違う衣装になっています。デザイン自体は原作と異なっていても、 “侑子らしさ”を意識しているので、原作ファンの方々にも違和感なく喜んでいただけるとうれしいですね。
ビジュアルだけでなく、蜷川さんは『xxxHOLiC』のメッセージ性にも強く共鳴されていました。ちょっと厳しいながらも、根底では愛情あふれていて、勧善懲悪ではない。『xxxHOLiC』にはそんなメッセージが込められていますよね」
桂田「CLAMP先生の作品は、ひとつの物語を様々なキャラクターの視点から見ることができる作りになっているからこそですね。一方から見ると正義に見えるけど、もう一方から見るそうとも言えない、といった具合に。先生によると、『xxxHOLiC』はもともと『CLAMPワールドのキャラクターたちが立ち寄れる世界を作りたい』というところから始まっているのだそうです。どこかしらで他作品のキャラクターがクロスオーバーして、様々な視点からひとつの事象を見せることで、“人によって物事の見え方は変わってくる”というのを描いていらっしゃるのだと思います」
宇田「蜷川さんは、そういったメッセージが詰まった侑子のセリフに対して『まさに私の言いたいことが書かれている!』とおっしゃっていました。蜷川さんはお子さんもいますが、若い子とのお仕事も多く、現代の生きづらさを感じているような若者が多いと。そんな子たちに向けて “母的な目線”からも伝えたいメッセージ、というのも今回の映画の大きなポイントでした。そういった方々、必要とされる方に、必要な想いが届くといいなと思っています」
取材・文/朝井麻由美