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安彦良和監督を支えた“3人の監督”がひも解く、40年ぶりに蘇らせた「ガンダム」への想い

インタビュー

安彦良和監督を支えた“3人の監督”がひも解く、40年ぶりに蘇らせた「ガンダム」への想い

「心象風景とシンクロしているように島を描けたら」(金子)

美術監督はイム副監督と共に「ガンダムvsハローキティプロジェクト」に参加していた金子雄司に声がかかった。「SDガンダム」からシリーズのファンになったという金子美術監督だが、第1作へのリスペクトが強い。「確か『THE ORIGIN』シリーズのホワイトベースの内装は、イージス艦っぽい色になっていたんですけど、今作ではオリジナルの印象に戻したいと相談しました。艦内のモニター類も(テレビ放送時の美術監督の)中村光毅さんがやられていた、ピンクや青といったかわいらしい色を使いたいと提案しました。個人の印象としてファーストガンダムってかわいいんですよね。作品として愛嬌がある部分があって、それは当時の拙さもあると思うんです。テレビ放送の『ククルス・ドアンの島』はその最たる例で、お話は面白いけど作画がちょっと残念という。それを極端に立派にするというよりは、『機動戦士ガンダム』の気さくな入りやすい部分というか、ここを背景でも出せたらいいなと思っていました」

もしかしたら『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(21)のようにディティールをどこまでも描き込める市街地がメインではなく、荒野といえる島だったこともプラスになっているかもしれない。金子は空の描写についてもこう言及する。「例えば時系列で、この雲がここにあるから次はここという理詰めでやるというよりは、演出として青空が欲しいから青空なんだという方が大切なんです」。

アムロ達の上陸を拒絶するかの如く、空は暗く曇り雷鳴が轟始める
アムロ達の上陸を拒絶するかの如く、空は暗く曇り雷鳴が轟始める[c]創通・サンライズ

空を演出することは、島自体にキャラクター性を与える取り組みでもあった。「例えば、時間帯によって景色が違って見えるというのを心がけていて、朝は優しい陽射しのなかで居心地の良い雰囲気なんだけど、一度陽が落ちると突然荒々しい岩のシルエットが見え出してくるように。気持ちよく晴れていたかと思えば、うねるような雲り空に覆われるとか。ククルス・ドアンという人とそういう島の心象風景が完全にシンクロしているように描けたらいいなと思っていました」。

舞台が戦場であることを強く意識させる圧巻の作画や美術
舞台が戦場であることを強く意識させる圧巻の作画や美術[c]創通・サンライズ


荒野が多い作品として『アリオン』(86)などの安彦監督作品を観返しながら、背景の雰囲気を探っていったという金子美術監督は、自分が経験してきた「ガンダム」の印象も今作に散りばめている。「例えばドアンのザクが仕舞ってあるドックは、(平成ゴジラシリーズの特技監督の)川北紘一さんがやられていたバンダイのプラモデルのテレビCMのイメージですし。ドアンを襲撃するジオン軍のサザンクロス隊が暴れるシーンは、初めて『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』を観た時の感じ。あと『機動戦士ガンダム戦場写真集』という、ガンダムの世界で戦中カメラマンが撮った写真集という設定の画集の質感を出したいなと思ってやっています」。

40年を経てリビルドされた「ククルス・ドアンの島」。これまで残念な作画の回としての評価ばかりが取り上げられてきたが、今回新たに集められたスタッフたちによって生まれ変わった姿は、まさに映画の体を成している。いち早く試写を観た人からは、SNSなどで識者、観客を問わず好評を博し、話題性も非常に高まっている。今回話を伺った方々も、例えば田村総作画監督は「反省点も多く、いまは気持ち的になかなか今作を観られません…」などと語りながらも、三者一様に「好評価は本当にうれしいです」と微笑む。

個々の登場人物の個性まで描く作画と演出、コントロールされた絵の味わい(線)やCGの表現の新しい可能性、演出に寄り添った美術背景…。ただ、ここで紹介できたのは『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の魅力のほんの一部だ。オリジナルのエピソードを観たことがあるという人はもちろん、これまで「ガンダム」に触れたことのなかった人も、ぜひ劇場で、1本の完結した映画として、「ガンダム」の最新作を楽しんでほしい。

取材・文/小林治


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