実写映画で改めて感じる”ハガレン”のメッセージとは。『鋼の錬金術師』完結編を原作ファンがレビュー!
渡邊圭祐のリン&グリード、新田真剣佑のスカーの作画の良さ
前作と比較しても、キャラクター個々の強さがさらに際立たせられているのも、ファンとしてはうれしい。完結編では新たなキャラクターが多く登場したが、物語のキーパーソンとなったのが、復讐に命をかける男スカーと、シン国の第12皇子のリンだ。この2人にピタリとイメージがハマッた渡邊圭祐、新田真剣佑の“作画”がすばらしい。
リンを演じるのは渡邊圭祐だ。アジア系の風貌のキャラクターなのだからハマるのは当然かといえば、もちろんそうではない。渡邊はリンの、無邪気だが気品あふれる振舞い、器の大きさとユーモアさを兼ね備えたキャラクターを見事に体現していた。特に、キング・ブラッドレイとの対決では皇子として、王とはなんたるかを証明するような戦いぶりが強く心に残る。同時にホムンクルスのグリード役も演じているが、二役の演じ分けは必見。グリードに関してはキャラクターとしてはもちろんのこと、渡邊本人の魅力が上乗せされていることもあり、リアリティがありながらも原作キャラクターの魅力を十分に発揮させた仕上がりとなっている。これは『復讐者スカー』で存分にリンとしての朗らかさや、エドとの対話のテンションの差を観客にアピールしていたことで、グリードとの対比が明確になっていたように思う。
そしてスカーを演じるのが新田真剣佑。イシュヴァール殲滅戦で国に理不尽に故郷を焼かれ、大切な人を奪われたスカーは、戦争に参加した国家錬金術師を次々に暗殺していく。大切なものを失くして復讐に狂う、純粋さと狂気を孕んだ役どころを演じたら、いま新田真剣佑の右に出る者はいないのではないだろうか。エキゾチックな風貌もキャラクターにマッチしており、なによりエドにとっての強敵と位置付けられるスカーの肉体を見事に再現していた。狂気を感じさせながらも、奥底に漂う悲しみが覗くその瞳。映画館で目が合えば一気に引き込まれる。
このほかにも、どうやって実写化するのかと不安も大きかったアームストロング少佐だが、山本耕史がびっくりするほど見事に再現。二次元色の強いキャラクターだけに、ファンとしては「なにか違う…」というモヤモヤが残りそうなものだが「いや、たしかに3次元になったらこうなる!」と納得させられるパワーがある。またアームストロング少佐の姉・オリヴィエを演じるのは栗山千明だが、こちらもお見事。個人的に、栗山演じるオリヴィエに発してほしいセリフがありすぎた。しかし上映時間には限りがあるので、どのようなシーンがピックアップされているかぜひ期待して観てほしい。
また、後編に欠かせない人物、セリム・ブラッドレイ(プライド)を寺田心が演じている。セリムの、わざとらしいほどに子どもらしい演技にはさすがの一言。かと思いきやプライドの時の、すべての人類を見下すのような傲慢で尊大な態度。これには荒川先生も「プライドを演じた心くんもすばらしかった。悪い心くん、すごく良いです(笑)」と太鼓判。こちらも楽しみにしていてほしい。
舘ひろしと内野聖陽、荒川先生も大好きな“おっさん”たちの偉大さ
エドたちの目の前に立ちふさがるキング・ブラッドレイ(ラース)を舘ひろし、エドとアルの父親であるヴァン・ホーエンハイムと“お父様”の二役を内野聖陽が演じる。スクリーンに現れた瞬間から、「実写になったらこうだよね」という姿をまさに体現している二人だ。キング・ブラッドレイの孤独と圧倒的な威圧感。それは“大総統”としてはもちろんのこと、“最大の敵”のひとりとして立ちはだかる姿としても抜群である。特に「私の城に入るのに裏口から入らねばならぬ理由があるのかね?」と戦場で二刀のサーベルを抜く姿には痺れる。勝てる気がしないし、自分が兵士だとしたらその場で腰を抜かすだろう。最大の見せ場であるリン(グリード)との戦闘では、実写映画ならではの熱を伝えてくれるシーンとなっている。
そして、もはやヴァン・ホーエンハイムを演じるのはこの人しかいなかった、と思わせるのが内野聖陽だ。苦悩を抱えながらも長く静かな戦いを続けていたホーエンハイム。しかし、どこかチャーミングなキャラクターを覗かせる塩梅が絶妙である。軽くなりすぎず、かといって悲壮になりすぎず。後編の『最後の錬成』ではもうひとりの主役と言っても過言ではない。
原作者の荒川弘も「おっさんを描くのが楽しい」とよくコメントしているが、まさにそんな描いていて楽しい“おっさん”がしっかりと具現化されているのではないか。年輪がある人間は奥が深い。キング・ブラッドレイとホーエンハイムにも深く刻まれた年輪があるように、それを自然と感じさせる俳優にしか演じられない役だったように思う。