『ヒメアノ〜ル』の狂気から『前科者』の魂の熱演へ…俳優、森田剛の歩みを振り返る
元受刑者の男の複雑な感情の揺れ動きを卓越した演技力で体現
そして、本題の『前科者』で森田が演じているのは、有村架純扮する保護司の阿川が社会復帰をサポートしている元受刑者の工藤誠。本作と同時期にWOWOWで放送されたオリジナルドラマ「前科者 ―新米保護司・阿川佳代―」で描かれた物語のその後を、『あゝ、荒野 前篇&後篇』(共に17年)の監督、岸善幸が脚本も手掛けたオリジナルストーリーだ。
保護司としての経験を積み、元受刑者たちの更生を親身に助ける阿川がいまもっとも気にかけているのは、刑務所から出所し自動車整備工場で働いている工藤だった。阿川の熱心な支援もあって、物静かな工藤は前向きに生活を送り、着々と社会復帰へと近づいていく。しかし、ある連続殺傷事件が発生し、工藤の犯行が疑われる。そして突然、工藤は姿を消してしまう―。
工藤が阿川の前に現れる登場シーンからなにやら動悸がはやるが、彼の全身から滲み出る“申し訳なさそう”な佇まいに、怖いけど守りたい、という相反する気持ちが、早くも観る者のなかでせめぎ合う。そして、現在の出来事と並行しながら工藤の生い立ちや複雑な人間関係が徐々に明らかになっていくと、「あぁ、あの時の表情は」「あの目に浮かんだものは」など、些細なことが腑に落ち、そのたびに胸が引きちぎられそうに。誠実さと狂気、愛と憎しみなど、その衝動がどっちに転がるのかわからない、森田が醸す揺れや葛藤にラストシーンまで心が揺らされ、そして泣かされる!いやはや、ヘビー級の見応え。
2022年は森田にとって、V6が解散し、独立後の新たな人生を踏み出す年。もっともっとスクリーンで森田を観たいと映画ファンは願わずにいられないが、5月に上演された舞台「みんな我が子 -All My Sons-」で堤真一、伊藤蘭、西野七瀬らと共演しており、「またしばらく舞台ばかりになってしまうのでは?」「演劇界が森田の才能を離してくれない?」なんて勝手な想像も頭をよぎる。ぜひともドラマに映画に演劇に、バランスよく私たちの前に現れてほしい、とお願いしたい気分なのである。
文/折田千鶴子
※吉田恵輔の「吉」は“つちよし”が正式表記