押井守監督が『アバター』に”敗北宣言”「私がやりたかったのは、まさにコレだったんだ」
「いまだに映像技術という点で『アバター』を超える作品はない。これは客観的な事実」
――最初の『アバター』は13年前の作品ですが、その後、それを超えるような映画はあったと思いますか?
「なかったんじゃない?いま観てもすごいよ、あの映像は。シーンすべてがデジタルという映画はあったと思うけど、いまだに映像技術という点で『アバター』を超える作品はない。これは客観的な事実ですよ。
もちろん、SF的にすばらしい『ブレードランナー 2049』や『DUNE/デューン 砂の惑星』のような映画はあった。でも、こういう映画は現実の素材を最大限利用しながら未来や異世界を作っていて、同じSFとはいえアプローチがまるで違う。でも、エンタテインメント大作、SFアドベンチャーというレベルで『アバター』を超える作品があったかというと、おそらくない。100%デジタルで作られた異世界で、あそこまで気持ちよく飛び跳ねるような映画には、あとにも先にもお目にかかったことがないよ」
――『アバター』の世界に憧れる人は多かったみたいですね。あの世界を体験したいと思い、何度も劇場に行ったという話を聞いたことがあります。
「だって、あの世界だったら体験してみたい、行ってみたいと思うじゃない? 『DUNE』を観てそういう気持ちはないでしょ?砂ばかりだし飯もまずそうだし(笑)。それに、『DUNE』は文芸映画みたいなものだから、『アバター』とはまるで違う位置づけになる。自由自在に美しい森を走り、極彩色の鳥に乗って空を駆ける。宮さん(宮崎駿)の『未来少年コナン』の世界だよ。
あの身体感は本当にすばらしい。ちゃんと重力と折り合いをつけて表現されていた。もしふわふわしているだけだったら自由自在さが出なかったと思うし、躍動感もダイナミックには伝わらなかったと思うよね」
――キャメロンは、そういうパンドラの世界をいちから作るのをとても楽しんだと、以前のインタビューで言っていました。
「キャメロンはSFアートのコレクターだって知ってた?」
――化石と隕石のコレクターだと押井さんに教えてもらいましたけど、SFアートも集めているんですね。
「お金持ちだから、いろいろ集めていて、私もキャメロンからアンモナイトの化石をもらったことがある。私自身が持っているアンモナイトの数倍デカいやつ(笑)」
――それはホンモノ?
「もちろんホンモノだよ!決まってるじゃない」
――失礼しました(笑)。SFアートのコレクターというのはどういうことでしょう?
「あのパンドラの世界観はまさにSFアートですよ。美術部門のスタッフだけじゃ、あの世界観は生まれない。キャメロン自身がそういう知識があるからこそ、出来たんだと思う。ちょっとSFアートをかじったくらいじゃ無理だよね、絶対。おそらく、彼自身が陣頭指揮をとって、アートのスタッフが出してくるデザインをベースに自分でいろいろと決めていったんだと思うよ」
――キャメロンは自分でも絵を描きますからね。『タイタニック』の時、ジャック(レオナルド・ディカプリオ)がローズ(ケイト・ウィンスレット)をスケッチするシーンの筆を走らせる手元のアップは、実はキャメロンの手でした。
「あれは見え見えだよね。突然、おっさんの手になるから、すぐにわかっちゃう(笑)」
1951年生まれ。東京都出身。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84)で劇場映画監督デビューを飾る。1995年に発表した『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はジェームズ・キャメロンやウォシャウスキー姉妹ほか海外の監督に大きな影響を与えた。また、『紅い眼鏡』(87)、『アヴァロン』(00 )、『ガルム・ウォーズ』(14)など多数の実写映画作品も手掛ける。ほか代表作に、『機動警察パトレイバー2 the movie』(93)、『イノセンス』(04)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)、「THE NEXT GENERATION パトレイバー」シリーズなどがある。