「ひよっこ」「この世界の片隅に」『“それ”がいる森』まで…ジャンルにとらわれない多彩な魅力を放つ松本穂香

コラム

「ひよっこ」「この世界の片隅に」『“それ”がいる森』まで…ジャンルにとらわれない多彩な魅力を放つ松本穂香

ヒロインとして作品に与えるきらめき

主人公の朔が、音楽から身を引きながらも、天真爛漫な凪に翻弄されるうちに再び音楽に触れていく『ミュジコフィリア』
主人公の朔が、音楽から身を引きながらも、天真爛漫な凪に翻弄されるうちに再び音楽に触れていく『ミュジコフィリア』[c]2021 musicophilia film partners [c]さそうあきら/双葉社

松本の勢いは、2021年に入ってからも止まらない。存在感がさらに増し、作品に輝きを与えるヒロインを演じることも多くなった。映画化もされた「神童」「マエストロ」などで知られるさそうあきらの同名音楽コミックが原作の『ミュジコフィリア』(21)で演じたのは、主人公の大学生、漆原朔(井之脇海)に想いを寄せる浪花凪。それだけではキラキラ映画のヒロインとなんら変わらないが、凪は朔の音楽の才能を開花させるキーパーソン。ほんわかしていてつかみどころのない“不思議ちゃん”なのに、彼女自身も天性の音感と歌声の持ち主というところに魅せられた人も多いはずだ。劇中では練習を重ねた初挑戦のギターを弾き、美しい歌声を響かせ、主題歌の「小石のうた」も歌唱。松本の新たなる魅力を印象づけた。

さらに、宇山佳佑によるベストセラー小説が原作の『桜のような僕の恋人』(22)では、人の何十倍もの早さで老化する難病を発症したヒロインの美咲に。映画の前半では中島健人が演じたカメラマン志望の晴人と恋におち、幸せいっぱいの彼女を普段の穏やかな笑顔で表現。後半では一転、晴人にも気づかれないほど年老いた美咲の悲しみと寂しさを、丸く小さくなった全身で伝えていて、観る者は松本のその狂おしくて繊細な芝居に涙したものだ。

高い演技力が光るホラー『“それ”がいる森』

松本は、主人公の息子の担任教師役に。彼女も恐ろしい現象に巻き込まれていく(『“それ”がいる森』)
松本は、主人公の息子の担任教師役に。彼女も恐ろしい現象に巻き込まれていく(『“それ”がいる森』)[c]2022「“それ”がいる森」製作委員会

松本が魅力的なのは、いい意味で無理をしないところ。役を“演じる”のではなく、その役を“自分として生きる”スタンスを貫き通しているから、どんなジャンルの作品に出てもいつも役のなかに彼女の色が残り、観た者の記憶に刻まれるのだ。


そんな松本の最新出演映画『“それ”がいる森』は、彼女が初めて足を踏み入れたホラームービー。相葉雅紀が田舎で農業を営む主人公の田中淳一に扮した本作で、松本は、淳一と彼の息子である一也(上原剣心)と一緒に森の中の“それ”に震撼する小学校の教師、北見絵里を熱演。“それ”を目撃した時の悲鳴や絶叫、瞳を全開にして慄くリアクションが生々しくも新鮮で見逃せない。松本の初めての表情と全身全霊の芝居が、恐怖と緊張感を高めている。

進化が止まらない松本穂香の魅力

こうして振り返っただけでも、ここ数年の松本の進化と躍進ぶりがよくわかる。それこそ2019年から2020年にかけて主演映画の公開が6本もあったことを考えると、彼女が映画界から求められていることも明白だ。

2023年も玉城ティナとのW主演で話題の『恋のいばら』が新年早々に公開を控えており、その後も、彼女自身も気づいていない新たな魅力が覚醒する注目作が作られるのは間違いない。見た目の印象はそのままに、アップデートし続ける松本穂香。彼女の動向からこれからも目が離せない!

文/イソガイマサト

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