『秒速5センチメートル』をIMAXで“新作”として体感!『君の名は。』『天気の子』…新海誠ワールドは“IMAX推し”
『秒速5センチメートル』をIMAXで目撃!エモいの最上級がここにある…
そしてなんといっても今回見逃せないのが、『秒速5センチメートル』のIMAX初上映だ。本作は、幼馴染であるタカキ(声:水橋研二)とアカリ(声:近藤好美/尾上綾華)が特別な想いを抱き合いながらも、時が流れていくにつれて、それぞれの関係性や想いが少しずつ変化していく姿を描くラブストーリー。
このニュースが発表されるや、SNSでも「IMAXで『秒速』が観られるの?」「IMAXの『秒速』上映、ヤバすぎ」と歓喜の声が続々と上がるなど、公開から15年の月日が経ちながらもファンから熱狂的な支持を集め続けている本作。イチ早く実際にIMAXで本作を鑑賞したところ、巨大スクリーンからノスタルジックな味わい、胸を締め付けるようなせつなさ、一体ワンカットにどれほどのこだわりを込めているのかと驚愕するような映像美を全身に浴びて、「エモい」とはこのことか…と上映後にしばし席を立ち上がれなかった。
“秒速5センチメートル”とは、劇中でアカリがタカキに教える“桜の花の落ちるスピード”のこと。映画のオープニングでは、淡いピンク色の桜がスクリーンいっぱいにひらひらと舞い、小学生のタカキとアカリに芽生えた初恋の香りにキュンとなる。彼らを照らす光の美しさも、まぶしいほどにきらめいている。
引っ越しによって離れ離れになった2人だが、中学生になったタカキがアカリの住む街まで電車を乗り継いで会いに行く場面では、“雪”が大きな役割を担う。雪が降るなかで、電車は遅延を繰り返し、タカキはなかなかアカリの待つ駅まで辿り着けない。距離と雪にはばまれて不安になっていくタカキの心情が、次第に冷たく、強く振ってくる雪の様子からも痛いほど伝わってくる。IMAXの良質な音響では、ゴトゴトと揺れる電車の音もリアルかつ、身体を包み込むように聴こえてくるため、タカキと一緒に電車に乗り込んでいるような臨場感もたっぷり。こちらまで心細くなってくるほどだ。
苦労と悲しみを超えて、タカキとアカリがストーブの火が灯る待合室でやっと再会を果たすシーンは、先ほどまでの寒さから一転。しんしんと積もる雪が優しく、暖かなものにも見えてくるから、不思議だ。明度、コントラストを豊かに表現するIMAXだからこそ、細やかな雪の表情の変化まで“体感”として味わうことができた。
またヨーグルッペやカブ、ガラケーでメールをするピポパという音、「リンドバーグ」の歌声など、大人が観ても「当時、流行っていたな。懐かしいな」と感じるような要素が映画を彩り、ノスタルジックな気分に浸る人もいるだろう。極め付けは、山崎まさよしによる本作の主題歌「One more time, One more chance」が流れるクライマックスだ。大胆な演出で楽曲と映像をシンクロさせ、畳み掛けるように二人の恋とすれ違いを表現。思い出の断片がどっと押し寄せて、観客にとって自身の記憶まで呼び起こされるような場面となっており、どっかに君の姿を探したくなってしまって困るかも…!IMAXの極上の没入感によって、タイムスリップしたような映画体験ができるはずだ。
迫力の音響を約束するIMAXだが、ものさびしさが魅力の本作では、季節を告げる虫の鳴き声や、風に揺れる草の音など、静寂のなかから浮かびあがる日常の音がきれいに聴こえてくる。IMAXで鑑賞して驚いたのが、タカキ役の水橋の繊細な演技。澄んだ深みのあるサウンドで確認すると、水橋が微妙な息遣いによってタカキのナイーブさを体現していることを実感できる。詩的なセリフも新海ワールドの大きな特徴だが、タカキの口にする言葉の一つ一つを噛み締める機会にもなった。
15年前の作品とあって「本作をDVDや配信でしか観たことがない」という人も多いことと思うが、IMAXで鑑賞した本作は、まるで“新作”のように感じられるものだった。改めてじっくり鑑賞すると、すれ違う2人、キャラクターの心情と重なる美しい風景描写、映像と音楽のリンクなど、いまなお変わらない新海ワールドの本質が詰まっており、美しくよみがえった映像も相まって、まったく古さを感じさせない。
『言の葉の庭』(13)でインタビューをした際には、「10代のころは、電車の窓から毎日変わる風景を見たり、星空を眺めて、自分を励ましたりもしていて。風景に元気付けられてきたという思いがあるので、同じように『風景って眺めるだけで力になるものだ』と思ってもらえるものを作っていきたい」と語っていた新海監督。変わらずに描いてきたのは、この世界の美しさ。そして憧れに手を伸ばそうとする人の尊さだ。ぜひともこの貴重な機会に、ファンはもちろん、未見の方にも本作の魅力を再確認してほしい。