宇多田ヒカルの名曲に対する、完璧な“解釈”によって誕生した「First Love 初恋」

コラム

宇多田ヒカルの名曲に対する、完璧な“解釈”によって誕生した「First Love 初恋」

いま述べたように、本作は作品がまずあって主題歌を書き下ろす・提供するのではなく、宇多田ありきの企画。「劇中の重要なシーンで流れる」といったレベルを超えて、物語全体の最重要なキーでありメインテーマとして据えられている。本作は、1998年に恋に落ちた高校生の男女がたどる約20年間の歩みを切なく描いたラブストーリー。

なぜ1998年なのか?それはこの年が宇多田のCDデビューイヤーだから。北海道の田舎町で出会った高校生の也英(八木莉可子)と晴道(木戸大聖)は互いに惹かれあい、交際をスタート。ちょうどその時期、ふたりと同世代の天才ミュージシャンが列島を騒がせていた。その名は、宇多田ヒカル――といった具合に、物語にがっつり組み込まれているのだ。

高校時代の也英と晴道を演じるのは、八木莉可子と木戸大聖
高校時代の也英と晴道を演じるのは、八木莉可子と木戸大聖「First Love 初恋」11月24日(木)Netflixにて独占配信開始

そして、也英と晴道の思い出の曲になるのが「First Love」。イヤフォンを分け合い、何度も何度も聴き続けたこの曲は、その後にある事件に巻き込まれ、離ればなれになってしまった也英(満島ひかり)と晴道(佐藤健)の人生の節目で大きな影響を与えていく。あるときはタクシーのラジオから流れてきて、そしてあるときは懐かしいCDプレイヤーを再生したとき…。「First Love」が二人の初恋の記憶を呼び覚まし、各々がとる行動を変えていくのだ。

さらには歌詞も物語の展開に直結しており、サビの「You are always gonna be my love いつか誰かとまた恋に落ちても I’ll remember to love」はもちろんのこと、「最後のキスは タバコのflavorがした」もきっちりとカバーする粋な演出が施されている。さりげなく描かれるシーンであっても、宇多田の楽曲に魅了されたファンにはシンクロ具合にニヤリとさせられることだろう。


【写真を見る】宇多田ヒカルの名曲をもとに描かれる、20年にわたる“初恋”の記憶
【写真を見る】宇多田ヒカルの名曲をもとに描かれる、20年にわたる“初恋”の記憶「First Love 初恋」11月24日(木)Netflixにて独占配信開始

「First Love」と同様に本作の柱となっているのが、「初恋」。こちらにおいては、作品のテーマを完全に体現しており(「初恋」で描かれるテーマが、そのまま「First Love 初恋」に重なる)、全話観終えた後にもう一度楽曲を聴くとすべて合点がいくつくりになっている。これは也英と晴道だけではなく、劇中で描かれるそのほかの人物の恋模様、例えば晴道が出会う少年・綴(荒木飛羽)やダンサーの詩(アオイヤマダ)にもつながっていき、すべての初恋を経験した人々のテーマソングとして響き渡る。まさに「もしもあなたに出会わずにいたら 私はただ生きていたかもしれない 生まれてきた意味も知らずに」であり、苦悩し傷つきながらも恋に身を任せて走り出す人物たちの姿は「欲しいものが 手の届くとこに見える 追わずにいられるわけがない 正しいのかなんて本当は 誰も知らない」とオーバーラップする。

つまり、「初恋」自体が「First Love 初恋」であるという特異な状態。分かちがたいほど強く結びついているがため、具体例を述べるとネタバレにもつながってしまう恐れがあるのだが――1点だけ、観賞前にぜひ注目していただきたいポイントを最後に挙げたい。それは、以下に記す歌詞だ。

「うるさいほどに高鳴る胸が 柄にもなく竦む足が今 静かに頬を伝う涙が 私に知らせる これが初恋と」

全9話で展開する珠玉のラブストーリーを堪能あれ
全9話で展開する珠玉のラブストーリーを堪能あれ「First Love 初恋」11月24日(木)Netflixにて独占配信開始

この部分を頭の片隅に置き、心に留めたうえで「First Love 初恋」を視聴したとき、あるシーンで涙が止まらなくなるはずだ。そう断言できるほど、ドラマティックで完璧な“解釈”が本作には流れている。「First Love」「初恋」から生まれたドラマ「First Love 初恋」。その神髄を、楽曲面からも堪能いただきたい。

文/SYO

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