『すずめの戸締まり』『かがみの孤城』から『トトロ』まで…映画で描かれた日常のすぐ隣にある”異世界への入り口”

コラム

『すずめの戸締まり』『かがみの孤城』から『トトロ』まで…映画で描かれた日常のすぐ隣にある”異世界への入り口”

トンネルを抜けると異世界に…『夏へのトンネル、さよならの出口』『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』

欲しいものを手に入れるため、高校生のカオルと転校生のあんずが協力関係を結びトンネルを調査する『夏へのトンネル、さよならの出口』
欲しいものを手に入れるため、高校生のカオルと転校生のあんずが協力関係を結びトンネルを調査する『夏へのトンネル、さよならの出口』[c]2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会

夏へのトンネル、さよならの出口』(22)では、欲しいものが手に入るというトンネルが登場する。最愛の妹を亡くした高校生のカオル(声:鈴鹿央士)と悩みを抱える転校生のあんず(声:飯豊まりえ)は、外の世界とは時間の進みが異なる“ウラシマトンネル”を調査するため協力することに。紫や赤色に発光する樹々が浮かび上がるトンネル内部の幻想的な情景に目を奪われつつも、現代版神隠しのような超常現象がミステリアスな余韻を残す。

引っ越し先に向かう道中で異世界につながるトンネルに迷い込む『千と千尋の神隠し』
引っ越し先に向かう道中で異世界につながるトンネルに迷い込む『千と千尋の神隠し』[c]Everett Collection/AFLO

神隠しといえば、『千と千尋の神隠し』(01)の冒頭に登場するトンネルも不穏さにかけては負けていない。千尋(声:柊瑠美)と両親は、引っ越し先へと向かう途中に見つけたトンネルを進み、神々が暮らす場所へと足を踏み入れる。千尋が働くことになる日本情緒漂う湯屋の風情が懐かしくも驚きに満ちていて、宮崎駿監督のオリジナリティあふれる世界観に魅了される。

『となりのトトロ』では、サツキとメイが、トンネルを抜けた先でトトロと出会う!
『となりのトトロ』では、サツキとメイが、トンネルを抜けた先でトトロと出会う![c]Everett Collection/AFLO

同じくスタジオジブリによる『となりのトトロ』(88)にも異世界へと通じるトンネルが。田舎に引っ越してきた草壁家の次女メイ(声:坂本千夏)は、庭で小袋を背負った小さな生物を見つけ、そのあとを追う。小枝でできた樹木のアーチやたて穴のトンネルを抜けた先にはトトロが眠っていて…。トンネルの先でトトロと出会う場面は、傘をさすトトロと遭遇するバス停のシーンと並ぶ、異世界と現実が交差する印象的なシーンになっている。

既成概念を覆す者との出会いで異世界に突入…『HELLO WORLD』『パンズ・ラビリンス』

最後は『すずめの戸締まり』のダイジンや『かがみの孤城』のオオカミさま然り、既成概念を覆す者との出会いをきっかけに日常が非日常へと変わっていく2作品。

『劇場版 ソードアート・オンライン −オーディナル・スケール−』(17)の伊藤智彦監督が手掛けたオリジナル劇場アニメーション『HELLO WORLD』(19)は、近未来の京都を舞台に描かれたSF青春ラブストーリー。内気な男子高校生の直実(声:北村匠海)の前に突然、10年後の自分であるナオミ(声:松坂桃李)が現れ、直実の将来の恋人である瑠璃(声:浜辺美波)を事故死から救えと告げる。ナオミによって人生観を覆す衝撃的事実を知らされた直実の闘いが壮大なスケールで描かれる。

守護神パンとの出会いをきっかけにオフェリアは3つの試練に挑んでいく(『パンズ・ラビリンス』)
守護神パンとの出会いをきっかけにオフェリアは3つの試練に挑んでいく(『パンズ・ラビリンス』)[c]Everett Collection/AFLO

そしてひときわ異彩を放つ出会いが描かれるのは、ギレルモ・デル・トロ監督によるダークファンタジー『パンズ・ラビリンス』(07)。1944年の内戦下のスペインを舞台とする本作では、森へと足を踏み入れた少女オフェリア(イバナ・バケロ)が迷宮の守護神パン(ダグ・ジョーンズ)と出会う。オフェリアが行方不明になっていた地下王国の王女モアナであると告げたパンは、彼女が王国へ戻るために乗り越えねばならない3つの試練を言い渡す。角を生やした異形のパンや手のひらに目を持つモンスターなど、デル・トロ監督が得意とする妖しくも禍々しい世界観は一見の価値ありだ。


今回紹介したのは、現実世界と異世界をつなぐファンタジックな11作品。改めて振り返ってみると、入り口となるのは「扉」や「鏡」、「トンネル」など日常にありふれたものばかり。異世界へと通じる道は案外すぐ近くにあるのかも…!?なんて想像が膨らんでしまう。もし非日常空間に興味があるなら、まずは劇場の入り口へGO!大スクリーンに映しだされる“異世界”を堪能してみてはいかがだろうか。

文/足立美由紀

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