『ラーゲリより愛を込めて』で真価を発揮、二宮和也が見せてきた“普通の男”の生き様が胸を打つ
第二次世界大戦の終戦後、零下40度を下回る厳冬のシベリアで“ラーゲリ(強制収容所)”に抑留された約60万人の日本人は、わずかな食糧しか与えられず重労働を強いられた。栄養失調で亡くなる者、絶望して自ら命を絶つ者などがいるなか、事実無根のスパイ容疑でラーゲリへと連れて来られた山本幡男(やまもとはたお)はダモイ(帰国)への希望を灯し続け、その想いはやがてほかの抑留者たちの心も動かしていく。
『ラーゲリより愛を込めて』(公開中)は、辺見じゅんによるノンフィクション小説「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を原作とする衝撃の実話。過酷な運命に翻弄されながら、再び家族で暮らすことを願い続けた夫婦の11年におよぶ愛を描いている。メガホンをとるのは『とんび』(22)の瀬々敬久監督、主人公の山本を二宮和也、山本の妻のモジミを北川景子が演じているほか、松坂桃李、中島健人、桐谷健太、安田顕らがラーゲリの仲間たちを熱演した。
本作で、第46回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を見事受賞した二宮和也。出演作のたび日本アカデミー賞でその名が挙がる実力派俳優として知られるが、近年は木村拓哉と共演した『検察側の罪人』(18)の若手検事役から近未来SF『TANG タング』(22)のダメ男まで幅広い役柄を体現。その自然体の演技は現代劇のみならず歴史劇でも健在で、一見取っつきにくい背景を持つ役柄であっても親近感を感じさせる等身大のキャラクターへと見事に昇華させている。
故国の家族を想い、シニカルな目線が印象的だった兵士を演じた『硫黄島からの手紙』
二宮が出演する歴史モノとして真っ先に浮かぶのは、クリント・イーストウッドが監督&製作を務めた『硫黄島からの手紙』(06)だろう。第二次世界大戦末期の“硫黄島の戦い”をベースとする二部作で、1作目の『父親たちの星条旗』(06)はアメリカ側からの視点、そして2作目となるこの作品では日本側からの視点で戦争を見つめ、史実の裏に隠れた両国の人々の想いを描いている。
二宮が演じたのは、硫黄島で戦うことになった陸軍一等兵の西郷昇役。進歩的な考えを持つ最高指揮官の栗林忠道陸軍中将(渡辺謙)のもとで本土防衛のために尽力するも、会えないままだった幼子に会うため生き抜くことを心に誓う家族思いの男性だ。奇しくも『ラーゲリより愛を込めて』と同様に帰国への希望を捨てない男を演じているが、ギリギリの状態で仲間たちを必死に鼓舞し続ける山本に対し、時にユーモアも交える今作の西郷役は戦争へのシニカルな目線が印象的。23歳だったころのこなれていながらもフレッシュな演技が楽しめる。