『ラーゲリより愛を込めて』で真価を発揮、二宮和也が見せてきた“普通の男”の生き様が胸を打つ
流暢な長崎弁を操り、母への愛情を滲ませる息子を好演した『母と暮せば』
そして吉永小百合とW主演した『母と暮せば』(15)は、戦後まもない日本を舞台とする物語。広島をモチーフにした井上ひさしの戯曲「父と暮せば」と対になる作品で、山田洋次監督が長崎で暮らす親子の絆を描いた感動作だ。二宮は“亡霊として母の前に現れた息子”という難役に挑み、第39回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝いた。
1948年8月9日、助産婦をする母の伸子(吉永)の前に、3年前の原爆投下で亡くなった息子の浩二(二宮)が現れる。伸子に元気か尋ねられ、「もう死んでるから元気なわけない」と答えて笑わせたり、結婚の約束をしていた町子(黒木華)の恋愛事情にヤキモキしたり。二宮は他愛ないやり取りのなかに母親への愛情を滲ませる浩二を好演。温もりを感じさせる長崎弁も話題になった一作だ。
捕虜と友情を育む姿にほっこりさせられる「潜水艦カッペリーニ号の冒険」
「潜水艦カッペリーニ号の冒険」は2022年初めに放送された新春スペシャルドラマ。実話から着想を得た本作では、日本とイタリアの国境を跨いだ友情と恋を描いている。ホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫が監督を務め、二宮は日本海軍の少佐である速水洋平、有村架純が洋平の妹の早季子を演じた。
第二次世界大戦下、同盟国だったイタリアが連合国側に寝返り、そのことを知らずに物資補給に来たイタリアの潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ号の乗組員たちは全員捕虜に。「食べて、歌って、恋をする」がモットーのイタリア兵たちを毛嫌いする洋平が、実は一生懸命でアツい一面も持つ彼らとしだいに友情を育んでいく姿にほっこりさせられる。このドラマで二宮は堅苦しい軍人を演じているが、その一方で好きな女性に告白できない純な青年の一面ものぞかせた。また、イタリア語が得意という設定の洋平にあわせ、流暢なイタリア語も披露。日本語とイタリア語それぞれでの歌唱シーンも登場するので、その甘い歌声も要チェックだ。
このように歴史劇であっても卓越した演技力でキャラクターに血肉を与えつつ、作品ごとに新しい顔を見せてくれる二宮だが、そのベースにはズバ抜けた作品への読解力がある。
『ラーゲリより愛を込めて』の初日舞台挨拶では、二宮が扮した主人公の息子である山本顕一さんから「父の幡男に何気ない仕草や表情がそっくり」という言葉と共に、「“偉人”としてでなく、“普通に生きた一人の男”として演じてくれたことがうれしかった」とのメッセージが寄せられた。等身大の演技で人間の強さや儚さまでも克明に浮き彫りにした二宮。彼が描きだす“温厚ながら不屈の信念を持つ1人の男の生き様”を劇場で堪能してほしい。
文/足立美由紀