【連載】「MINAMOの話をきいてミナモ?」最終回 私が歩いてきた道

コラム

【連載】「MINAMOの話をきいてミナモ?」最終回 私が歩いてきた道


17歳の私は、自分の未来になんの興味も示せなかった

「学校も先生も友達というものも大嫌いだった」と語るMINAMO
「学校も先生も友達というものも大嫌いだった」と語るMINAMO撮影/SAEKA SHIMADA ヘアメイク/上野知香

私は、学校も先生も友達というものも大嫌いだった。同じクラスの子たちが同じ人間かと疑うほどにまぶしくて、先生はいつも正しくて、学校はただの狭苦しい箱で。私はとにかく不安定でひどく醜かった。内部生がたくさんいた私の高校では、スクールカーストがより残酷な形で現れた。「実家が太い」なんてくだらない言葉を覚えたのもその頃である。大好きな英語を学ぶために進学した高校は、見栄や虚勢を張ることに勤しむ、そんな人たちであふれていた。

「愛されているのは分かっている。家族や恋人、友達、先生、常に愛は感じる。それでもどうしようもないほどの喪失感に襲われる。愛されたい。気にかけられたい。大事にされたい。そんな思いでいっぱいの私の心はきっとおかしい。」――16歳の日記より。それは私の悲痛の叫びだった。子供と大人の間で、自分を冷静に分析しつつも結論はなに一つ得られない。自分の知識や経験のなさに絶望した。

17歳、皆が人生の岐路に立ち、泣いたり笑ったり毎日がイベントだった頃、私は自分のこれからの未来になんの興味も示せなかった。

MINAMOが衝撃を受けたジム・ジャームッシュの代表作『ナイト・オン・ザ・プラネット』
MINAMOが衝撃を受けたジム・ジャームッシュの代表作『ナイト・オン・ザ・プラネット』[c]Fine Line Features/ Courtesy: Everett Collection

なんの気なしに観た『ナイト・オン・ザ・プラネット』に惹き込まれたのはその頃である。週一で通っていた古本屋のDVDコーナーにふらっと立ち寄った。古い映画ばかりが並んでいて、どれも難しそうだった。ジャケットに惹かれて、なんとなく選んだのがジム・ジャームッシュ監督の映画だったのだ。それは運命的な出会いだった。高揚感で胸をいっぱいにしながら6歳の頃に読んだ「大どろぼうホッツェンプロッツ」シリーズや、ロアルド・ダールの書籍以来の感動を覚えることとなった。それまで映画にあまり触れてこなかった私にはこの『ナイト・オン・ザ・プラネット』の世界観はとても新鮮で、衝撃を受け、食い入るように観たのを覚えている。車内の映像が淡々と流れるその画は、見ていてなぜか飽きない。観終えた頃には私はこのまま宙に浮いてしまうんじゃないかと思うほど軽やかで、あんなに怖かった悲しみが襲ってくる夜も、なんだか愛せるような気がした。

「エスプリ」。それは簡潔かつ明快で、鋭い切り返しを称賛したフランス語の言葉だ。『ナイト・オン・ザ・プラネット』はまさしく、エスプリに富んだ作品である。私がこの作品を愛する訳は、映画の素晴らしさを教えてくれ、「もっと映画を見てみたい」と思わせてくれたからだ。

18歳、不器用な父から、ギクシャクしてしまった家族から、私は逃げた

ひとしきりいろんな国の映画を見た後、私は邦画の良さに気づき、毎日何本も映画を見た。『嫌われ松子の一生』を観たのはその頃。あれよあれよという間に坂道を転げ落ちていく主人公・松子の人生を喜劇のように映し出したこの映画の、松子のセリフ一つ一つに私は魅了された。『嫌われ松子の一生』では、余計なシーンは一つもない。全てのシーンに意味があり、訴えかけるものがある。松子が作中に何度も弱々しくつぶやく、「なんで?」は誰もがきっと心の中でつぶやいたことのあるセリフだろう。この世に、どれくらいの「松子」がいるのだろうと、想像すると、つらくてやるせない。だが絶対にいる。作中で松子はどんな不幸に陥ってもそれを受け入れ、下を向かずにずっと前を見続けた。松子の真っ直ぐさは私の魂を揺さぶった。その頃私は下ばかり向いていたからだ。

『嫌われ松子の一生』のヒロインのセリフ一つ一つに魅了されたMINAMO
『嫌われ松子の一生』のヒロインのセリフ一つ一つに魅了されたMINAMO[c]Toho Company Ltd/courtesy Everett Collection / AFLO

松子が父からの愛を渇望する姿を見て、いつも無口だった私の父を思い出した。私の中の父は怒ると物に当たり、大きな音を出す。そしてたまに優しい顔で私の頬を大きな手で撫でてくれた。「誰が飯を食わせてやってると思っているんだ」。そう言っていた父から、ギクシャクしてしまった家族から、私は逃げた。バイトをして貯めていたお金で大阪へ行った。

18歳。育った土地から離れる日、私は安堵の息をつくかと思いきや、真昼間の阪急電車の中で涙が止まらなかった。今思えば、父は確かに口は悪いし、荒い。でもただ不器用なだけだった。私は父と上手くコミュニケーションが取れなかったことを、ずっと父のせいにして生きてきた。話さなければいけないことを話したがらず、どうしたら父の怒った顔を見ずに済むのかばかり考えていた。父は幼い私に四字熟語の面白さを教えてくれ、私の数学への苦手意識を緩和してくれた。本当に不器用だったけれど、怪物なんかじゃない、優しい私の父親だった。そして不器用だったのは私もだった。

■MINAMO プロフィール
京都府出身。2021年6月にSOFT ON DEMANDよりAV女優としてデビュー。趣味は映画&レコード鑑賞、読書。
YouTubeにて「MINAMOジャンクション」を配信中。
Twitter:@M_I_N_A_M_O_
Instaglam:minamo_j


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