演技巧者が集結した歴史スペクタクル『ハンサン ―龍の出現―』が描く“義と不義の戦い”
「イ・スンシンは真の融和のアイコン」キム・ハンミン監督が描きたかった英雄像
秀吉の侵略戦争において行われた23回の海戦を連戦連勝に導いたイ・スンシンだが、『バトル・オーシャン 海上決戦』は韓国国内でも“クッポン”(過剰で盲目的な愛国主義)のそしりを免れなかった。日本でも、抗日的英雄像に好印象を持たない向きもあるだろう。しかし、キム・ハンミン監督が「イ・スンシンは本物の、真の融和のアイコン」と話したように、『ハンサン ―龍の出現―』の物語はそうした誤認を解く方へ向かっていく。俊沙はイ・スンシンが口にした「義と不義の戦い」、すなわち「国と国と戦いではない」という態度に導かれた。映画のサブストーリーとして描かれる、陸のハンサン大戦と呼ばれ熾烈を極めた熊峙峠での合戦で、ファン・バク(イ・ジュニョク)ら義兵が心に抱いていたのも、“義”の一文字で、イデオロギーの対立ではない。
朝鮮の歴史を紐解くと、多くが門閥出身であった陸軍とは違い、水軍は伝染病が蔓延する過酷な労働環境であったため身分が低い者が従事し、社会的に見下されていた。そして偉人である一方、中傷による失脚と拷問といった波乱にも見舞われたイ・スンシン。キム・ハンミン監督は彼らを、垣根を超えて苦難というキーワードで結び、ドラマティックに映した。人間同士の融和というイ・スンシンの精神が、現代を照らし出してくれる。
文/荒井 南
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