押井守が語る、アニメ業界の課題とヒット作の必要性「『ヤマト』や『ガンダム』がなければ、私は監督になっていない」
「アニメーションのスタッフに必要なのは、技術と知識だけじゃない。人間性も大事」
日本のアニメは世界中で愛され、いまや日本文化の代表とも言える存在となった。「アニメや漫画、実写、小説を問わず、日本の文化は国内の需要に特化している。そのなかで、なぜアニメが世界で通用しているかというと、抽象的な表現だから。あとは、オタクが世界中に山盛りにいるから」と分析した押井監督。同映画祭が、国内外のアニメファンやアニメ制作者が集った「交流の場となればうれしい」と願う。
コロナ禍を経て、アニメ制作の過程においても「在宅でやるようになった人が多い」そうだが、押井監督は「自宅で仕事をするようになると、人に会いたくなる。仕事仲間に会うということが、いかに楽しいことなのかわかった人も多いと思う」としみじみ。押井監督自身、人との出会いに刺激を受けながら今日まで歩みを進めてきたといい、「人との出会いに刺激をもらうことは、しょっちゅうですよ。映画やアニメは人間がつくるものだから、人と人との出会いがすべてと言ってもいい。いい絵描きに出会って、『この人の絵で、映画をつくってみたい』と思ったり、『このアニメーター、このプロデューサーに出会っていなければ、この作品はやっていないな』と思うことも山ほどある。実写だって、役者との出会いがモチベーションになる。出会いが一番大事なんだよね。音楽だってそうですよ。僕が川井憲次とずっと一緒にやっているのだって、『ほかにあんなやつはいない』と思うような出会いからだし、そういった人間がいて初めて仕事になる」と実感を込める。
いい作品を生みだすために、人と関わりながら切磋琢磨しているのがアニメ制作の現場だという押井監督だが、同時に現場における「新陳代謝の難しさ」も感じていると告白。「アニメーションが完成するまでには、平気で3年くらいの年数がかかるものなんです。3年も付き合う人となると、知識や技術だけではなくて、人間性がもろに大事になってくる。現場に入ってくるスタッフには、10代の人もいると考えると、僕にとっては孫みたいなもの(笑)。経験してきたことも違うし、やりたいことや、話す言葉も違う。そのなかで新陳代謝したり、人材育成をしたりしていくのはとても難しいことですよ。若い子だって、うるさいジジイにいろいろ言われたくないでしょう。僕なんかと仕事をしたいなと思っても、ひどい目に遭わされると思って逃げちゃったりね」と苦笑いする。
だからこそ、同映画祭でざっくばらんな対話や交流ができることを望んでいるのだという。「とにかく、地に足のついた映画祭として、継続していくことが大事。地に足のついていない映画祭は、すぐに潰れてしまう。長編映画に絞ると決めたからには初志貫徹して、『この映画祭に出品してみたい』と思ってもらえるような、新しい才能がチャレンジできる場になればいいなと思っています」と未来を見つめていた。
「第1回新潟国際アニメーション映画祭」は、3月17日(金)から22日(水)の6日間、新潟市民プラザを中心に、クロスパル新潟、T・ジョイ新潟万代、シネウインドの4拠点を会場として開催される。
取材・文/成田おり枝
日程:3月17日(金)~22日(水)
場所:新潟市民プラザ、クロスパル新潟、T・ジョイ新潟万代、シネウインドほか
URL:https://niigata-iaff.net/