画家・ヒグチユウコが表現する『M3GAN/ミーガン』の世界。せつない運命をたどる"人形もの"の魅力とは?
「人形ははじめから、いつか廃棄されるという運命にある」
『ドールズ』(87)や『チャイルド・プレイ』(88)、『アナベル 死霊館の人形』(14)など人形の恐怖を描いた作品は時代を超えて多くの映画ファンを魅了してきた。このジャンルの魅力について、ヒグチは人形の持つ悲しさをあげる。「人形に“持ち主”がいる以上、彼らが人形を必要としなくなる時がきます。人形ははじめから、いつか廃棄されるという運命にあるということです。少年型アンドロイドを題材にしたスティーヴン・スピルバーグ監督の『A.I.』は最初から捨てられた設定だから、私にとっては最初から悲しいしかないという意味で、すごく“ホラー”な映画。漫画だと、楳図かずお先生の『ねがい』も少年の友達として作られた人形のお話で、とても悲しい作品でした」。そんな人形の悲劇性はミーガンにも当てはまる。「子どもって本当に成長が早いんです。映画を観ながら、ミーガンはケイディにはぴったりだけど2人はいつまで一緒にいられるだろうって」。いつか破綻するという予感を抱きながらスクリーンに見入ったという。
「いまこの瞬間は親密だけど、その関係性はいまにも壊れそうな脆さを持っている」
そんなヒグチが描いた『M3GAN/ミーガン』のイラストには、同じポーズをとるミーガンとケイディが並んでいる。2人の表情はどこか寂しげだ。「双子のようにも見えますが、2人の関係は“かりそめ”なんです。いまこの瞬間は親密だけど、その関係性はいまにも壊れそうな脆さを持っています」と解説する。人形と持ち主を描いた絵本「せかいいちのねこ」をシリーズで著しているヒグチは、人ではない側からの視点でも本作を観たという。「息子のぬいぐるみをモデルに、持ち主にかわいがってもらおうとするお話を描いたので、人形側から観た部分もあります。なので、ミーガンに感情移入して、寂しい気持ちになるシーンもありました」。
人や生き物の形をした人形は、人の想いを託すものとして作られてきた歴史を持っている。「息子のぬいぐるみを捨てたら、たぶんチャッキーみたいになるでしょう(笑)。まだ息子が小さいころ、『ぬいぐるみが汚れてきたから洗おうか?』と聞いたら、『においが消えてしまう』と嫌がったんです。だいぶ魂が入っていますから、ほぼほぼ呪物として完成されつつあるはず。そんな想いもあるので、私は相当の想い入れがなければ、人形を自分の家に入れることはありません」と語る彼女のアトリエには、「死霊館」ユニバースでお馴染みアナベルが置かれているという。「大好きな人形なので、ちゃんとお札をつけて置いています」と笑う。
「絵と立体では、そこにあるという存在感が圧倒的に違うと思う」
テディベア・ぬいぐるみ作家の今井昌代とのコラボや、作品展「ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END」でオリジナル人形アニメーションを上映するなど創作活動でも人形と関わりのあるヒグチは、立体という表現の魅力を「体積がある強さ」だという。「絵と立体では、そこにあるという存在感が圧倒的に違うと思います。よく仕事でご一緒する今井さんは、たまに私が描いている作品をぬいぐるみにするんです。いつのまにか『思いついたから作ってみた』と。でもそのまま立体化するのではなく、プラスアルファの要素を入れて彼女の作品になっている。そういう相乗効果でよくなった作品を目にすると、立体は強いなと感じます」と解説する。
“ミーガンダンス”のブレイクも追い風になり、アメリカでは『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)に続く初登場2位スタートと大ヒットした『M3GAN/ミーガン』。ブラムハウスは早くも続編の製作を発表した。「どんな作品になるか楽しみですね。私はホラーからヒーローものまでジャンルを問わずなんでも観ますが、チャッキーやアナベルが大好きな私にとって人形ものは特にお気に入りのジャンル。いろんな人形たちに会えるのを楽しみにしています」とミーガンのさらなる活躍に期待を寄せた。
取材・文/神武団四郎
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