ハンフリー・ボガート、ロバート・ミッチャム、リーアム・ニーソン…探偵フィリップ・マーロウを演じてきた名優列伝

コラム

ハンフリー・ボガート、ロバート・ミッチャム、リーアム・ニーソン…探偵フィリップ・マーロウを演じてきた名優列伝

邪道的傑作『ロング・グッドバイ』と原作ファン絶賛の『さらば愛しき女よ』

エリオット・グールド主演の『ロング・グッドバイ』
エリオット・グールド主演の『ロング・グッドバイ』[c]1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

三つ数えろ』を王道とするなら、ロバート・アルトマンが監督し、エリオット・グールドがマーロウに扮した『ロング・グッドバイ』は邪道的傑作といえるだろう。なにしろ同作の舞台は公開当時、1970年代のロサンゼルス。マーロウが住むアパートにはヒッピー女子たちが集団生活を送っており、深夜に飼い猫に起こされたマーロウはキャットフードを買いに24時間営業のスーパーに行く。こうした改変が当時は非難轟々だったようだが、半世紀が経過したいま観ると、ハンガリー出身の撮影監督ヴィルモス・スィグモンドが捉えたありし日のロサンゼルスの光景はひたすら美しい。そしてこうした視点は、10代を英国で過ごしたためにロサンゼルスを異邦人として捉え続けたチャンドラーの視点とシンクロしているのだ。

【写真を見る】ネコ好きなマーロウの一面が見える『ロング・グッドバイ』。松田優作も「探偵物語」の役作りの参考にしたとか
【写真を見る】ネコ好きなマーロウの一面が見える『ロング・グッドバイ』。松田優作も「探偵物語」の役作りの参考にしたとか[c]1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

そんな『ロング・グッドバイ』に対して、原作への忠実さで称賛されたのがディック・リチャーズ監督作『さらば愛しき女よ』である。主演はロバート・ミッチャムで、何度ボコボコにされても立ち上がる不屈のタフガイにこれ以上ないほどハマっていた。シャーロット・ランプリングのファム・ファタール役もすばらしい。

ロバート・ミッチャム主演作『さらば愛しき女よ』
ロバート・ミッチャム主演作『さらば愛しき女よ』[c]ITC Films LLC 1975

フランスの名女優シャーロット・ランプリングが美しきヒロインを熱演(『さらば愛しき女よ』)
フランスの名女優シャーロット・ランプリングが美しきヒロインを熱演(『さらば愛しき女よ』)[c]ITC Films LLC 1975

最新作は原作にはない物語が描かれている?その真相は…

『さらば愛しき女よ』の評価の高さには、原作刊行時の1940年代の風俗を完全再現していることも影響している。ただしそのせいで製作費が高くついたのか、ミッチャムが再びマーロウを演じたマイケル・ウィナー監督作『大いなる眠り』では舞台を現代のイギリスに変えられてしまった。『三つ数えろ』でローレン・バコールが演じていたキャラクターを原作どおりの重度のギャンブル中毒者に戻すなど、原作重視の姿勢は評価したいが、ロンドン名物の黒タクシーで容疑者を追うマーロウの姿にはさすがに微妙なものを感じてしまう。なによりミッチャムはこの時点で61歳。さすがに探偵役には無理あった。しかし年齢を言ったらリーアムは71歳である。だがそれを感じさせない演技と設定の妙が『探偵マーロウ』にはあるのだ。同作はこんなプロットを持つ。

ロバート・ミッチャムは『大いなる眠り』でもマーロウを演じた
ロバート・ミッチャムは『大いなる眠り』でもマーロウを演じた[c]Copyright ITV plc(Granada International)

1939年。私立探偵フィリップ・マーロウのもとに黒い瞳にブロンドの髪を持つ美女クレア(ダイアン・クルーガー)から、死んだはずのかつての愛人ニコ(フランソワ・アルノー)を捜して欲しいとの依頼が舞い込む。クレアは高級クラブの玄関前で車にひかれて死んだ彼を最近メキシコで見かけたというのだ。謎を追ってクラブに集う富豪たちや往年の名女優ドロシー(ジェシカ・ラング)に面会するうちに、マーロウはハリウッドの裏にはびこる闇に足を踏み入れてしまう。


チャンドラーの熱心な読者なら「あれっ」と思うはず。そう、謎めいた美女、死んだはずの人物の生存、大富豪のスキャンダル、ハリウッドのゴシップと、キーワードこそ彼の長編小説と共通するものの、物語自体は原作にはないからだ…いや、正確に言うと原作は存在するのだが。

リーアム・ニーソンが念願のフィリップ・マーロウを演じた『探偵マーロウ』
リーアム・ニーソンが念願のフィリップ・マーロウを演じた『探偵マーロウ』[c]2022 Parallel Films (Marlowe) Ltd. / Hills Productions A.I.E. / Davis Films

チャンドラーの資産管理団体の公認のもと、ブッカー賞受賞作家ジョン・バンヴィルがベンジャミン・ブラック名義で2014年に発表した小説「黒い瞳のブロンド」がそれにあたる。ただし同作はもともと「長いお別れ」の続編として書かれているため時代設定は1950年代。それを「大いなる眠り」が刊行された1939年に移して独立した物語として楽しめる映画に仕上げているのだ。

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Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」配信情報
6月19日(月)から配信開始
■『ロング・グッドバイ』
■『さらば愛しき女よ』
■『大いなる眠り』

【スターチャンネル 放送情報】
■『ロング・グッドバイ』
[STAR2 字幕版]6月19日(月) 21:00~/6月24日(土) 16:50~
■『さらば愛しき女よ』
[STAR2 字幕版]6月20日(火) 21:00~/6月28日(水) 8:00~
■『大いなる眠り』
[STAR2 字幕版]6月21日(火) 21:00~/6月27日(火) 10:15~
STAR CHANNEL MOVIES 『探偵マーロウ』公開記念!

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