思わず「ンフッ」と笑ってしまう「和山ワールド」日常を突き詰めた先にあるオフビートなおもしろさ
日常を切り取り、掘り下げる和山作品
和山の初の単行本となったのは、2019年発売の「夢中さ、きみに。」。創作ジャンルに絞った同人誌即売会コミティアで発表していたマンガが編集者の目に留まり、単行本化へと話が進んだという。テビュー後には初の連載作品「女の園の星」、そして「カラオケ行こ!」、12月28日(木)に発売される「ファミレス行こ。」を執筆している。「夢中さ、きみに。」は大西流星と高橋文哉での共演で実写ドラマ化、「女の園の星」は単行本第3巻特装版にオリジナルアニメが収録され、こちらは声優を星野源、宮野真守が担当。そして今回の「カラオケ行こ!」が映画化と、ここまで発売された作品がすべてメディアミックス化されている。
和山作品は、ジャンルで分類すること自体が難しい。だからこそ、「こういうジャンルだ」と身構える必要がなく、まずはその作品の流れに身を委ねてみてほしい。気がつくと、吹きだしたり、微笑んだり…というよりは「ンフッ」と笑いが漏れてしまう。「ふふっ」とか「ははは!」ではなく、「ンフッ」となるのだ。舞台は、学校だったり、カラオケボックスだったりと突飛な場所ではない。特別変わったキャラクターもいない。ただ、日常をよりリアルに細かく描いている。おそらく、ほかの作品であれば特筆されることもないワンシーンを切り取ったエピソードを、ミクロな視点で綴っている。
例えば、「女の園の星」は女子高を舞台とした物語で、主人公となるのは国語教師の星先生。担当する2年4組の日誌を見ていると、謎のイラストが描かれていることに気がつく。どうやら生徒たちで絵しりとりをやっているようだが、途中でどうしてもなにかわからないイラストが登場して、星先生が前後の流れからそのイラストの正体に頭を悩ます…というエピソードがある。女子高生と先生によるほんの些細なエピソードなのだけれど、星先生は仕事のかたわら、一生懸命イラストの正体の解明に努めており、そんなふうに”日常”をきちんと突き詰めるとなんだか笑ってしまう。だからだろうか、和山作品に登場するキャラクターたちはみんな楽しそうだ。
もちろん、なにかに思い悩んでいるキャラクターもいるのだが、彼らの悩みも突き詰めていくと大抵のものはやりすぎになり、おもしろくなるのかもしれない。まるで、”考えすぎるほどバカらしくなるので、好きなように悩めばいい”、と言ってくれているかのようにも聞こえてくる。そんなささやかな日常を丁寧に描いているからこそ、映像化された際の没入感も高いのかもしれない。一つ、特別に注視したい点があるとすれば、和山作品はキャラクターたちの脳内会話を抜きだしたようなナレーションで話を進めていくものが多い。映像化する場合、そこをどう描いていくのかが、作品の雰囲気を左右するようにも思う。
待望の最新作は「カラオケ行こ!」の続編「ファミレス行こ。」
そんな和山やまの最新作品が「ファミレス行こ。」だ。「カラオケ行こ!」の続編で、大学生になった聡実の生活に個性豊かなキャラクターたちが関わってくる。発売は12月28日なので、先に続編を読んでから映画『カラオケ行こ!』を観るか、それとも映画を先に観るか悩ましいところである。
新作が発売されるたびに期待が掻き立てられる和山やまワールド。この冬はぜひ、映画でも原作でもそのワクワクを体感したい。
文/ふくだりょうこ