事故物件、奇祭、憑依チャレンジ…若者の悪ノリが招いた、背筋が凍る“しっぺ返し”
住んでしまったら、最後…『事故物件 恐い間取り』
自殺や殺人、孤独死など、住人が不自然な形で最期を迎えた住居を指す事故物件。『事故物件 恐い間取り』(20)は、そんな“よくない部屋”を題材にしたホラー映画だ。10年続いた中井(瀬戸康史)とのお笑いコンビを解消し、ピン芸人になった山野ヤマメ(亀梨和也)は、番組の企画のため事故物件での暮らしをスタートする。次々と事故物件を渡り歩く山野はしだいに体調に異変をきたし、周囲でも不可解な現象が起きていく。
本作は「事故物件住みます芸人」として活動しているピン芸人、松原タニシのドキュメント小説がモチーフ。Jホラーの起爆剤「リング」シリーズでワールドワイドな人気を誇る中田秀夫が監督を務めている。『クロユリ団地』(13)では事故物件の後片付けをする特殊清掃員を描いていた中田監督だが、本作では売れるために危険に飛び込む芸人をコミカルなタッチを交えて描写。クライマックスでは怨霊とのバトルを繰り広げるなど、怖いだけでないエンタメ作に仕上げている。一方で、裏方として事故物件暮らしをサポートしていた中井が「たくさん霊が出ますように」と願掛けする姿が笑いを誘うが、やがて彼の家族が不幸に見舞われていく展開にゾッとさせられる。
SNS時代に放たれた、新感覚の“バチアタリ”『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』
SNSや動画配信サイトが若者のなかで当たり前になったことで登場したのが、『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』だ。本作で長編監督デビューを飾ったのは、登録者数682万人(2023年12月7日現在)の YouTubeチャンネル「RACKARACKA」を主宰する双子のダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟。本国オーストラリアに続きアメリカでも高い評価を受け、続編『Talk 2 Me』の製作が決定。人気ゲーム「ストリートファイター」実写版の監督にも抜擢されるなど熱い注目を浴びている。
憑依といえばシリアスで緊張感あふれる儀式が思い浮かぶが、本作ではパーティの一環として描かれる。ここでの憑依は、アルコールやドラッグの代用なのだ。霊に体や心を乗っ取られおかしな言動をするさまを若者たちは熱狂しながら鑑賞し、なんとバチアタリなことに写真や動画を撮影し加工。仲間内でリアルタイムにシェアしながら大声で笑いあう。
しかし、度がすぎたパーティにはやがて暗雲が立ち込める。ライリーに憑依した霊はミアの母を名乗り、なにかを訴えるように彼女に語りかける。彼女に支配されたライリーは、突発的に頭をテーブルに叩きつけるなど容赦なく自分を傷つけていく。10代半ばの少年が凄まじい勢いで死のうともがく光景は衝撃的だ。
好奇心を持つことは大切なことだが、節度をわきまえないと大ケガをするのは現実も同じこと。ただし後先考えず行動できるのは若者の特権でもある。フィクションの世界に限って言えば、無謀でやんちゃな彼らのような“バチアタリ”なキャラクターこそが、ホラー映画に欠かせない要素だと言えるだろう。
文/神武団四郎