鼻水を流す闘士、マジギレ運転手、毒盛る大富豪…“感情の俳優”ラッセル・クロウが最新作で見せた“ポーカー・フェイス”な演技
ほかでは見られない!?恋する中年ラッセル・クロウ
先述の『グラディエーター』ほか『エイリアン』(79)、『ブレードランナー』(82)、『ブラック・レイン』(89)、など超大作を撮ってきた巨匠リドリー・スコット監督がラッセル・クロウを主演にロマンティック・コメディを撮った!?と、ファンを驚かせたのが『プロヴァンスの贈りもの』(06)。ロンドンで大成功した金融トレーダーのマックス(クロウ)は叔父が亡くなり、その遺産相続の手続きのために南フランスのプロヴァンスに向かう。ワイナリーを相続するがワインに興味のないマックスはすぐに売るつもりでいた。ところがプロヴァンスの美しい風景を見ているうちに少年のころを思い出し、地元のレストランで働くファニー(マリオン・コティヤール)に恋して気持ちが変わっていく。
本作ではほかの作品では見られない、演技力の幅の広さを見せるクロウの姿が見られる。前半のイケイケで自分より下のヤツを見下す嫌な男。プロヴァンスに着いてからも、地元の人々を田舎者とバカにする。しかもそんな役をクロウがいかにも楽しそうに演じている。そしてその心境が変化していく様も演じきる。ここで見せる感情は“楽”。こんなラッセル・クロウ、見たことない!
最強、最凶、最悪、最低…荒々しいラッセル・クロウの到達点
出世作『L.A.コンフィデンシャル』の前に出演したSFアクション『バーチュオシティ』(95)でクロウが演じたのは、犯罪者の分析と対処方の仮想現実シミュレーターのために凶悪犯罪者187人のデータで作られた最強の犯罪者シド6.7だったが、『アオラレ』のクーパーは中年太りのおっさんにも関わらず、シド6.7に負けない凶悪犯罪者だ。レイチェル(カレン・ピストリアス)は息子を車で学校に送る途中、信号でなかなか動かない前の車に思い切りクラクションを鳴らしてしまう。するとその運転手クーパーはレイチェルを執拗に煽り、どこまでも追ってくる。
現代版『激突!』(73)ともいうべき作品。しかし、『激突!』のトラック運転手は顔も見せずに一種のモンスターとして描かれたが、本作のクーパーはどこにでもいる中年男性だ。本作の脚本を読んだクロウが「この映画には絶対出ない」と決めたほどの強烈なキャラクター。ふと「誰もやらないような役をやりたい」という初心を思い出して出演することにしたという、いわば大物俳優となったクロウの原点回帰作だ。
とにかく全編、怒っている。クロウはこの役のために太り、異様な雰囲気を身体全身で表している。わずかに笑顔も見せるが、それは怒りと狂気を隠すための仮面にすぎない。冒頭、クーパーになにやらあったことは示唆されるが、なにに怒っているかは一切明かされない。レイチェルが狙われたのも、運悪くクラクションを鳴らしてしまっただけ。このクーパーのもっとも恐ろしいところは“なにも失うものがない”ことだろう。だから逮捕されることも死ぬこともなにも怖くはない。自分の感情のままに動くだけだ。レイチェルと息子をブチのめすためなら手段は選ばないので、巻き込まれて多くの人が犠牲になっていく。アカデミー賞受賞の名優でありながら、こんな役を選ぶクロウはやはりスゴいと思わせてくれる。やっぱり人間がいちばん怖い。
見た目怖いが実はチャーミング!?
ラッセル・クロウとなかなか結びつかない映画ジャンルに、ホラーがある。『アオアレ』は一種のホラーかもしれないが、長い俳優歴で『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(17)くらいしかホラーはない。最近のホラー作品『ヴァチカンのエクソシスト』でクロウが演じたのは教皇直々の悪魔払い師、アモルト神父。ホラーとはいえ実在したエクソシストのガブリエーレ・アモルトによる回顧録の映画化なので、真実味がある。アモルトはスペインの村で悪魔に取り憑かれたヘンリー少年の悪魔祓いの命を受ける。地元のエスキベル神父(ダニエル・ゾヴァット)の協力を得て悪魔祓いを始めるが、相手は強力な悪魔でアモルトの心の隙をつく攻撃を仕掛け、あまりの強さにアモルトもくじけてしまうが…。
敬虔なクリスチャンであるアモルトは、クロウの顔面の強さもあって頑固で実直な神父に思えるが、実はかなりのお茶目な人物。悪魔の「俺はお前の悪夢だ」という脅しに対し「私の悪夢はワールドカップのフランス優勝だ」とジョークで返したりする。ここでクロウの持つユーモアのセンスが光る。神の名を借りて悪魔に圧をかけたり、悪魔のトラウマ攻撃にひるんだり怯えたりと次々と表情を変えていく難役を見事に演じている。クロウもアモルト役に手ごたえを感じたのか、すでに続編も決定しているという。