GWはアニエス・ヴァルダ、ソフィア・コッポラらの傑作をイッキ見!いま観るべき女性映画作家4人を振り返る
近年、往年の映画作家たちのレトロスペクティブ上映が好評を博している。例えば2022年から開始されたウォン・カーウァイの特集上映では連日満席のヒットを記録したが、注目すべきはかつて作品に親しんでいた層のみならず、20代などの若い世代も劇場に足を運んだことだろう。レトロスペクティブ上映はそうして、新たな世代と名作との出逢いの場ともなっている。最近では『アル中女の肖像』(79)などで知られるドイツのウルリケ・オッティンガーや、ケリー・ライカートらの名前を引き合いに出しつつ称賛されてきたアメリカのニナ・メンケスをはじめ、映画史において重要とされながらも日本ではなかなか日の目を浴びてこなかった女性映画作家たちの特集上映が立てつづけに組まれ、いま再評価の波にある。レトロスペクティブ上映は当時、劇場公開の機会に恵まれてこなかった不遇の作家たちをも掬い上げているのだ。そんなレトロスぺクティブ上映で取り上げられる名作が、いまなら配信で楽しめる。今回は、Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」で配信中の作品から、自宅でのレトロスペクティブ上映を提案していきたい。
“女性監督”のパイオニア、アニエス・ヴァルダ
長編デビュー作の『ラ・ポワント・クールト』(54)でキャリアを開始し、“女性監督”のパイオニアとして映画史を切り拓いてきたアニエス・ヴァルダ。放浪者だった少女モナ(サンドリーヌ・ボネール)の最期の痕跡を追う『冬の旅(1985)』(85)は、批評家などからヴァルダのフィルモグラフィにおける最高傑作として絶賛されてきた。ドキュメンタリー映画も数多く手掛けたヴァルダはこの『冬の旅(1985)』以前にも、癌の検査結果を聞くまでの女性の時間を追体験させる『5時から7時までのクレオ』(61)や、妻が夫から不倫の事実を告白されて一家に亀裂が入る『幸福(しあわせ)』(64)といった劇映画において、常に女性の死の気配を招き入れてきた。場面が切り替わる瞬間に画面が原色に染め上げられるほど色彩が横溢する『幸福(しあわせ)』は、荒む冬の枯れた景色の『冬の旅(1985)』と画調としては対極にあるが、どちらも厳しいまなざしで女性の生が置かれた不遇を告発している作品だといえるだろう。
『冬の旅(1985)』は劇中で移動撮影を効果的に繰り返すため、直向きに歩きつづけるモナの姿に最も残像効果を施す。最期まで創作活動に身を捧げながら2019年にこの世を去ったヴァルダの遺作『アニエスによるヴァルダ』(19)で、彼女は移動撮影装置に自ら乗りながらこの移動ショットについて、洋文では通常左から右に読むために右から左へと移行する運動は違和感を喚起させること、移動ショットの終わりが次のショットとリンクしていること、そうして「自分にしか分からない謎」を映像に残したかったことを語った。ヴァルダの映画は強いメッセージ性を抱え込んでいながら、映画としての技巧性や形式美もまた豊かにある。貧困と社会の周縁に置かれた人々を描くドキュメンタリー映画『落穂拾い』(00)でヴァルダが「芸術家が試みるのはすべて“自画像”だ」というように、ヴァルダ自身の片鱗も作品の随所に認められるが、どこにもない生き方で歩きつづけた崇高な放浪者たるモナの精神を、不寛容な世界のしがらみから逃れたいと願う私たち自身もまた、宿しているに違いない。