GWはアニエス・ヴァルダ、ソフィア・コッポラらの傑作をイッキ見!いま観るべき女性映画作家4人を振り返る

コラム

GWはアニエス・ヴァルダ、ソフィア・コッポラらの傑作をイッキ見!いま観るべき女性映画作家4人を振り返る

異なる世代の女性同士の関係性を描かせたら並ぶ者なしのメーサーロシュ・マールタ

女性たちのささやかな革命を常にテーマとしたメーサーロシュ・マールタ監督
女性たちのささやかな革命を常にテーマとしたメーサーロシュ・マールタ監督写真:REXアフロ

第25回ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いた『アダプション/ある母と娘の記録』
第25回ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いた『アダプション/ある母と娘の記録』[c]National Film Institute Hungary - Film Archive

ヴァルダはまた、女性で初めてベルリン国際映画祭金熊賞を受賞するなど国際的な映画監督でありながらも、日本では長らく本格的な劇場公開の機会に恵まれてこなかったハンガリーの映画作家メーサーロシュ・マールタを評価していた一人だった。マールタのフィルモグラフィでは、とくに異なる世代の女性同士の関係性が特別な輝きを放つ。“母”になりたい女性と“妻”になりたい女性の交差が描かれた『アダプション/ある母と娘の記録』(75)はマールタにとって最重要作の一本であり、“結婚”と“子ども”のテーマを俎上に載せる。工場勤務で未亡人のカタ(ベレク・カティ)は、別の相手と結婚関係にある恋人に「子どもが欲しい」と打ち明けるが、家庭を壊したくないその恋人はカタを拒絶してしまう。その矢先、カタは若くして恋人との結婚を熱望しているアンナ(ヴィーグ・ジェンジェヴェール)を気に留め、次第に仲を深めてゆく。多義的な結末は、“結婚”や“子ども”が女にとって最上の幸せであるはずだとする社会通念を揺るがすようでもあり、マールタはそうして女たちを異性愛規範に基づく伝統的な家族像への信仰から逸脱させてみせている。

マリナ・ヴラディがマリ、モノリ・リリがユリを演じた『マリとユリ』
マリナ・ヴラディがマリ、モノリ・リリがユリを演じた『マリとユリ』[c]National Film Institute Hungary - Film Archive

世代の異なる女性2人の関係性は、『マリとユリ』(77)で再び変奏される。工員寮の責任者を務めるマリ(マリナ・ヴラディ)は、モンゴルへの出張を決めた夫との長年の結婚生活に抑圧されており、彼女は寮に子どもと住まわせてやることになったユリ(モノリ・リリ)を“初めて本音で話せる女性”と慕う。シャワーを浴びているマリと服のまま闖入してきたユリが濡れながら笑い合う瞬間は、映画のなかで数少ない多幸感あふれる場面のひとつとして心を震わす。マールタ映画において男女の関係は不安定でかつ脆弱性が取り巻くが、一方で女性同士の関係は友情ともロマンスともつかぬ形容し難い親密さが芳醇に漂う。また、マールタは妊娠や出産を重要な主題として扱うだけでない。『ナイン・マンス』(76)では撮影当時妊娠していた主演俳優のモノリ・リリの分娩までも実際に映画に収めさえしており、その映画史に残る記録的瞬間も見逃せない。

第30回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞した『ナイン・マンス』
第30回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞した『ナイン・マンス』[c]National Film Institute Hungary - Film Archive

実験的なスタイルで魅了したシャンタル・アケルマン

トッド・ヘインズやガス・ヴァン・サントなど名だたる巨匠監督がリスペクトを口にするシャンタル・アケルマン
トッド・ヘインズやガス・ヴァン・サントなど名だたる巨匠監督がリスペクトを口にするシャンタル・アケルマン写真:ロイターアフロ

主婦の1日の家事労働を遅延した時間のなかカメラで捉えたフェミニズム映画の金字塔『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(75)で知られるベルギーの映画作家シャンタル・アケルマンは、ほかにも実験的なスタイルの映画を数多く世に送りだした。例えばドキュメンタリー映画『家からの手紙』(77)は、ニューヨークのどこか荒涼とした風景を映しだしながら、アケルマンが断続的に母親からの手紙を朗読してゆく。そこにはアケルマンも、その母も実際に姿を現すことはない。その後、アケルマンにとって遺作となったドキュメンタリー映画『ノー・ホーム・ムーヴィー』(15)では、ポーランド系ユダヤ人でアウシュヴィッツ強制収容所を生き残った母の日常にフォーカスが当てられている。

トッド・ヘインズ監督が絶賛した『家からの手紙』
トッド・ヘインズ監督が絶賛した『家からの手紙』[c]Fondation Chantal Akerman

ブリュッセルの暑い夜に起こる出会いと別れをつづったシャンタル・アケルマン監督『一晩中』
ブリュッセルの暑い夜に起こる出会いと別れをつづったシャンタル・アケルマン監督『一晩中』[c]Fondation Chantal Akerman

多くの時間が固定カメラによる長回しのショットで映され、定点観察的に様々な夜の人間模様が綴られてゆく『一晩中』(82)は、『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』や、三部からなる構成的な厳格さを携えた『私、あなた、彼、彼女』(74)などと等しく形式を重んじた作品群に連なるだろう。カロリーヌ・シャンプティエの撮影が美しいことはもはや言うまでもなく、人生の大事なモメントがすべて夜にしか起こらないのではないかという幻夢へと観客を誘う。

「私が子供のころに見た母親の身振りに由来したフェミニストの映画」とアケルマン監督が公言した『私、あなた、彼、彼女』
「私が子供のころに見た母親の身振りに由来したフェミニストの映画」とアケルマン監督が公言した『私、あなた、彼、彼女』[c]Fondation Chantal Akerman


静寂とした『一晩中』とは月と太陽、陰と陽の関係といえるほどに対極的なアケルマンにとって唯一のミュージカル映画『ゴールデン・エイティーズ』(86)は美容院や服飾店などパリのブティック街を舞台に、色恋沙汰しかなくなってしまったかのような世界が仮構される。人と人はすれ違いざまに何度もぶつかるほど画面に鮨詰めにされ、鮮やかな色彩が飛び交う過剰さによって彩られる装飾性に胸が躍る。アケルマンがそのデビュー作『街をぶっ飛ばせ』(68)で発露させていた衝動的なエネルギーも彷彿とさせる『ゴールデン・エイティーズ』は「人生はうまくいくもの」と観る者をエンパワメントすると同時に、彼女のフィルモグラフィの多様さを知らしめる快作である。

アケルマンがミュージカルに挑戦した『ゴールデン・エイティーズ』
アケルマンがミュージカルに挑戦した『ゴールデン・エイティーズ』[c]Jean Ber - Fondation Chantal Akerman

アケルマンの監督デビュー作となった短編『街をぶっ飛ばせ』
アケルマンの監督デビュー作となった短編『街をぶっ飛ばせ』[c]Fondation Chantal Akerman

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