「壮大で共感できるストーリー」「徹底的にオリジナルを追求」スカーレット・ヨハンソン&チャニング・テイタムが語る、“月面着陸の裏側”の舞台裏
いまから55年前の1969年に全世界を興奮させた“アポロ11号の月面着陸”。人類史上最大の偉業とも称される一方で、世界中に流布されたのが、映像や写真がすべてフェイクなのではないかという噂をもとに生まれたのが、『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(公開中)だ。完全オリジナル脚本に惚れ込み、自身もプロデューサーを務めたスカーレット・ヨハンソンと共演のチャニング・テイタムは、この“月面着陸の裏側”の舞台裏を語り合う。
「この作品をノンフィクションだとは思ってもらいたくない」(テイタム)
物語の舞台は“アポロ計画”がスタートしてから8年が経過した1969年。人類の大きな夢はなかなか成功に至らず、激化する宇宙開発競争では遅れをとり、予算は膨らみ、国民からの関心も薄まっていた。そんな悲惨な状況を打破するために雇われたのはPRマーケティングのプロであるケリー(ヨハンソン)。全世界にこのプロジェクトをアピールするために手段を選ばない彼女に、実直で真面目なNASAの発射責任者のコール(テイタム)は反発。徐々にお互いを認めあっていくなか、ある衝撃的なミッションが動きだすことに。
「古めかしい雰囲気もありますが、モダンであり、最近では作られなくなった作品です」と、本作の魅力を語るテイタム。「僕が演じたコールは、当時NASAのプロジェクトに参加していた複数の人物を組み合わせたもの。ですがこの作品をノンフィクションだとは思ってもらいたくない。この作品は完全なフィクション。アメリカのある時代、ある場所で起きたファンタジーなのです」。
一方ヨハンソンは「広告代理店に勤めていたケリーがNASAでの仕事を射止めたのは、一にも二にも彼女が優秀だからです。世間の支持がなくなっている月面着陸と、NASA自体をリブランディングするという仕事を、彼女は見事に成し遂げていきます」と説明。自らプロデューサーも務めるヨハンソンは、当初は裏方として作品に参加する予定だったという。しかしローズ・ギルロイが手掛けた脚本に魅了され、このケリーという役を演じることに決めたそうだ。
「いまではあまり見られない魔法のようなトーンを感じられる」(ヨハンソン)
「プリプロダクションの段階で、私たちには求めるトーンがあり、ローズもそれをわかっていたし、スタジオ側も理解してくれていました。問題はそれを理解して最初から最後まで完璧に具現化し、それ以上の位置まで高めてくれる監督を見つけだすことでした」と、ヨハンソンはプロデューサー目線で本作の成り立ちを振り返る。そこで白羽の矢が立てられたのは、大ヒット作『フリー・ガイ』(20)の製作を務め、様々な映画やドラマシリーズで監督や脚本を務めてきたグレッグ・バーランティ監督だ。
「グレッグは登場人物を愛し、俳優や演技、コメディそのものを愛し、なによりもニュアンスというものを大切にしています。会話を聞くだけでどうすればうまくいくか、リズムが良くなるのかを理解しているので、とても美しいかたちにあらゆるニュアンスが込められている。それは私たちにとってとてもやりやすく、彼は自信が抱く台詞の音楽的な理想に行き着くよう我々を誘導してくれました」とバーランティ監督を絶賛するヨハンソンに、テイタムも「グレッグは本当にプロフェッショナルです」と賛同。
さらにテイタムは「映画は監督を映す鏡。この映画は本当に楽しく、よく練り込まれた壮大な映画。つまりグレッグはそういう監督なのです」と称賛。そして「僕とスカーレットは最初、ハワード・ホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』のようなイメージで作品に臨みました。するとグレッグは、『君たちだから作れるものにしたい。もっと遊んでほしい』と、役柄の枠組みを外れず2人の間に軋轢を生じさせさえいれば自由にやることを許してくれました。それがとても楽しく、モダンな要素を取り入れられた大きな理由だと思います」。
“アポロ11号”をはじめ、有人宇宙飛行計画を題材にした映画はこれまでも多数制作されてきた。それらとは一線を画すタッチで作られた本作ではあるが、ヨハンソンは「本作の魅力を最大限に味わうためには、劇場で多くの観客たちと一緒に没入するのがいいと思います」と劇場の大きなスクリーンで鑑賞することを薦める。「壮大でありながらも共感できるストーリー、キャラクターが主役となり、巨大なセットも使われている。いまではあまり見られない魔法のようなトーンを感じてもらえるでしょう」。
テイタムもそれに呼応するように「いま映画界ではストーリーが出尽くしている。この映画もアメリカの歴史として誰もが知っている出来事が題材になっているが、誰もが知っていることを新たに描くのはとても大変なことです。でも徹底的にオリジナルを追求し、独特な雰囲気と特徴を持っている。アメリカの歴史のすばらしい瞬間をいままでにないかたちで描いている点で、劇場で観る価値があるのです」と自信たっぷりに語っていた。
構成・文/久保田 和馬