批評家が選ぶ、黒沢清監督の代表作ランキング!世界の舞台で活躍する現代日本映画の巨匠の“フレッシュ”10選
最も高い評価を獲得しているのは94%フレッシュで並んだ2作品。1990年代の代表作である『CURE』と、2000年代の代表作である『トウキョウソナタ』。各年代に代表作をもっているところが黒沢監督の巨匠たるゆえんのひとつであり、かたや連続猟奇殺人事件を描いたスリラーで、もう一方は不安定な家族模様を描いたヒューマンドラマと対照的な点も見逃せない。
黒沢の名が世界に知られたきっかけとなった作品が、まさにこの『CURE』だった。日本公開の翌年に、オランダのロッテルダム国際映画祭を皮切りに世界各地の映画祭で紹介され、とりわけヨーロッパで大好評を獲得。当時黒沢監督はまだ40代前半。それからは新作のたびに海外映画祭の常連として注目されるようになり、76%フレッシュを獲得した『回路』では第54回カンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞している。
すでに様々なジャンルを扱う監督ではあったものの、『CURE』や『回路』の評判もあってか2000年代中ごろまではスリラー映画のイメージが先行していた。そのイメージが大きく覆るきっかけとなったのが『トウキョウソナタ』であろう。日本とオランダ、香港の国際共同製作で作られた同作は、第61回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞。独自のヴィジョンを持つ世界の作家を紹介することで知られている同部門では、のちに『岸辺の旅』(15)でも監督賞を受賞している。
興味深いのはこの上位2作品に次いで高い評価を得ているのが、前田敦子を主演に迎えたウズベキスタンと日本の国交樹立25周年を記念した国際共同製作作品である『旅のおわり世界のはじまり』や、第66回ベルリン国際映画祭のアウト・オブ・コンペティションに出品された『クリーピー 偽りの隣人』など2010年代以降の作品に集中している点だ。
国際映画祭の主要部門で上映されるようになったことがその理由ではあるが、それだけ国際的な舞台で黒沢清作品への注目度が上がり、かついずれもが安定した高評価を得ていることが、このスコアからは窺うことができよう。もちろん冒頭でも述べた第77回ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞受賞作の『スパイの妻 劇場版』で幕を開けた2020年代は、よりいっそうその傾向が高まっているともいえる。
第81回ヴェネチア国際映画祭でアウト・オブ・コンペティションに出品され、続け様に第49回トロント国際映画祭にも出品された『Cloud クラウド』は、現時点で90%フレッシュと高い評価を得ている。同作は第97回アカデミー賞の国際長編映画賞の日本代表作品にも選出されており、おもにヨーロッパの映画祭で注目を集めてきた黒沢監督の独自の世界観が、アメリカの賞レースでどのように受け入れられるのかは注目が集まるところ。
この『Cloud クラウド』をはじめ、今後、世界でいまよりも黒沢監督の作品が観られるようになれば、各作品のスコアはめまぐるしく変化していこうことだろう。
文/久保田 和馬