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『シビル・ウォー アメリカ最後の日』アレックス・ガーランド監督×藤井道人監督が対談「ものを書く仕事において“昇進”という概念はない」

インタビュー

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』アレックス・ガーランド監督×藤井道人監督が対談「ものを書く仕事において“昇進”という概念はない」

「僕はできるだけ多く旅をするようにしています」(ガーランド)

藤井「これは個人的に持ち帰りたい質問なのですが――ガーランド監督が描かれる、もしくは作られた世界は現実と離れていないようでSFファンタジーの要素がありますよね。あなたが生みだす“IF(もし)”の世界観の大ファンなのですが、どういうところからそれが湧き出てくるのでしょうか。自分もオリジナルをやったり、原作モノにトライしたりしているのですが、どこかで自分が麻痺してしまっているような感覚に悩まされています。生む苦しみにどう対処しているのか、クリエイティブの根幹をぜひ教えてください」


ガーランド「これは昔学んだことですが、ものを書く仕事において“昇進”という概念はありません。僕は24歳で『ザ・ビーチ』を書きましたが、これが結構売れまして『よし、これでもう大丈夫だ』と思ったら全然そんなことはありませんでした。自分が会社員だったら、いい仕事をしたら昇進したでしょうが、作家は結局またゼロから新たなものを生みださないといけません。『そうか、これはずっと変わらないんだ』ということに気づき、どこからアイデアを生みだすのか悩んだ時、カズオ・イシグロさんの友人でもある年上の作家から『あなたの人生を生きなさい』と言われたのです。

アイデアのために、あえて居心地の悪い環境に身を置くというガーランド監督
アイデアのために、あえて居心地の悪い環境に身を置くというガーランド監督撮影/興梠真帆

作家というとずっと部屋に閉じこもって黙々と机に向かって書いているように思いがちですが、それではすぐにネタが尽きます。ですので、僕はできるだけ多く旅をするようにしています。遠い国に行って、あえて居心地の悪い環境でイマイチ信頼できない人たちと交流するなかで不安を覚えるような状況を自ら作るのです。そうした奇妙な空間にいると、自然と様々なアイデアが生まれてきます」

「A24は、数が限られていても、熱量の高い客層を大切にしてくれるので、僕としても相性がとてもいいです」(ガーランド)

藤井「なるほど…。とても勉強になります。最後に、ガーランド監督とかかわりの深いA24についても質問させてください。僕は日本にはA24のような映画会社はないと思っていますが、実際に“中の人”に会った機会は一度しかなく、実態はまったくわかっていません。それもあって長らく憧れのブランドなのですが、A24のなにがガーランド監督を魅了しているのでしょう」

リーとジェシーの師弟関係も物語において重要な要素となる
リーとジェシーの師弟関係も物語において重要な要素となる[c]2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

ガーランド「実は、『エクス・マキナ』の制作資金を出してくれたのはユニバーサルでした。でもいざ完成させたら『これでは売れない』と言われてしまったんです。そこで買い取ってくれたのがA24でした。アメリカのスタジオ相手に仕事をしていると過去に数回こういったことが起きて、そのたびA24やNetflixが買い取ってくれたり、あるいはスタジオ自らがなるべく予算をかけずに小規模公開したり…というようなことが繰り返されていました。
要は、アメリカの伝統的な映画スタジオは『なるべく多くの観客がいいね!と言うものがほしい』という考えなのです。だから、僕が作るような一筋縄ではいかない、割と小規模な作品をよく思ってくれないんですよね。対照的にA24はまさにそういう作品を好んでくれます。彼らはそういった作品に飢えている客層がちゃんといることに気づいてくれているんですよね。散々マクドナルドを食べさせられて『もうちょっと違う味のものを食べたい』と思う観客たちのことを。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、まさに「息をのむ」ようなシーンの連続
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、まさに「息をのむ」ようなシーンの連続[c]2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

A24と出会う前は、『本当はこういうことが語りたいけど、そのままだと通らないだろうな』と考えて、アイデアのなかにこっそり忍び込ませていわゆるメジャー作品に見せかけてスタジオに売って作らせてもらい、あとからなにか言われても『残念、もう作っちゃいました』というようなスタンスで騙し騙しやってきました。そこにA24が現れて、最初から正々堂々とできるようになったのです。大勢が『なんとなくよかった』と言うものより、数が限られていても『大好き!』と言ってくれる熱量の高い客層を大切にしてくれるので、僕としても相性がとてもいいです」

藤井「ガーランド監督、今日は本当にありがとうございました。とにかく勉強になりましたし、すごく幸せな時間でした」

ガーランド「こちらこそ、ありがとうございました」

取材・文/SYO

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